ころりん ころらど

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~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

火のおくりもの

2021年9月6日

  • タイトル
    火のおくりもの ―マプーチェ族のむかしばなし―
  • 原題
    La noche que nos regalaron el fuego
  • 発行年
    2007年
  • 出版社
    Pehuén (ペウエン社)

あらすじ

夏のおわり、母親のカルフライエンと息子のリンコヤンは、冬じたくのために森の木の実をひろいに山をのぼります。山をえんえんと歩きつづけているうちに、しだいにあたりはくらくなり、とうとう夜になってしまいました。リンコヤンはこわくなって、母親の手をぎゅっとにぎります。それに気づいた母親のカルフライエンは、リンコヤンの恐怖をとりのぞくために、マプーチェ族の火にまつわるおはなしをきかせます。火のおかげで夜はあたたかく、自分の家にいるような安心感を与えられ、リンコヤンは母親の腕にやさしくつつまれながら眠りにおちるのです。(対象年齢:5~8歳)

※ マプーチェ族:チリ中南部からアルゼンチン南部に住むアメリカ先住民族。民族名は、彼らが話すマプーチェ語で「大地」(Mapu)に生きる「人々」(Che)を意味する。マプチェ族は、南アメリカ南部を支配し、インカ帝国やスペインの侵略に対し長く抵抗を続けた民族として知られている。(Wikipediaより)

感想

2007年、チリ政府は経済的理由で学校教育を受けるのが難しい子どもたちにも、平等に本を読む機会を与えたいという目的の下、子どものための読書教育プロジェクト「マレティン・リテライオ」を実施しました。 今回のチリの絵本 『火のおくりもの』は、2009年のマレティン・リテラリオ選定図書に選ばれた作品です。審査員たちは、チリで有名な作家、詩人、出版界の専門家たちで構成されています。

ストーリーは民話をベースにしたシンプルなお話なのですが、子どもを想う母親の愛情あふれるお話になっています。まず、火のお話に至るまでの挿入部分なのですが、リンコヤンが抱く夜の恐怖を母親がいち早く察知し、火をおこすことにより世界を一変させ、家にいるような安心感を与えます。さらに、おばあちゃんの毛布に二人でくるまり、体を互いにくっつけあうことで、リンコヤンの気持ちをほぐし、それから本題である火にまつわるお話に入っていきます。

文章には「じめんがおどる」、「ゆうやけぞらよりもあかい石」、「うらやましがりやのくも」といったユニークな自然描写が楽しく、イラストもテキスタイル、色紙、水彩、アクリルを組みあわせた新しい技法が取り入れられています。ベテランの作者と若手イラストレーターのコンビで、新しい感覚で民話を紹介することに成功しているように思います。

作者について

文: カルメン・ムニョス・ウルタード(Carmen Muñoz Hurtado)

チリ大学で文学を専攻した後、チリカトリック大学で美術と美学を学ぶ。日刊紙『エル・メルクリオ』の文化欄で美術批評の記事を寄稿、他にも多くの記事を執筆した。児童書の分野においては、教育省向けに作品を提供、その中でも部族の少年・少女を主人公にした民話を4作品執筆し、どれもスペイン語と作品に出てくる民族の言語(マプーチェ語、ラパ・ヌイ語、アイマラ語等)の2言語を並列し出版している。チリ政府・教育省が進める「地方の初等教育プログラムに向けた教育支援のための手引き書」の中でも、彼女の作品は使われている。


絵:アレハンドラ・オビエド(Alejandra Oviedo)

チリの若手イラストレーター。大学でグラフィック・デザインを学んだ後、ワークショップに参加しながら技術を磨き、イラストの中にテキスタイルや色紙、水彩やアクリル絵の具を使用する等、様々な要素を用いる技法を見出した。2008年 チリのサンティアゴ・ブックフェア、2009年 国内の児童書ブックフェアのポスターを手掛ける他、2作目の絵本となる 『アニマレトラス“Animaletras”(2008年)』でイラストを担当している。


翻訳(スペイン語→マプーチェ語):エリクラ・チウアイラフ・ナウエルパン(Elicura Chihuailaf Nahuelpan)

詩人。彼の作品はチリ国内だけでなく、他国にも広く読まれており、イタリア、ドイツ、イギリス、オランダ、スウェーデン、フランス、クロアチア、ハンガリーで翻訳出版されている。カサ・デ・ラス・アメリカス文学賞の審査員も過去に務めている。

おはなしの一部

………

リンコヤンは、おかあさんの手を はなそうとせず、

おそるおそる あたりを みまわしていました。

いっぽう、おかあさんのカルフライエンは、

リンコヤンが おびえているのがわかると、

かわいた えだをひろい、たき火をおこすことにしました。

たちまち、火は うつくしく みごとにもえはじめました。

「さあ、ここで よるをすごしましょう。

まるで、いえの かまどの火のようね!」

おかあさんは、おおきなこえで いいました。

リンコヤンにも、すべてが かわってみえました。

まるで、じぶんのいえに いるみたいに、

もりが やさしく つつんでくれました。

「ねえ リンコヤン、おかあさんも こどものころ、

くらいのが とてもこわかったのよ」

おかあさんは、やさしくいいました。

「ずっとむかし、おかあさんが まだ ちいさかったころ、

とうさんにつれられて キノコをひろいにでかけたの。

そのうち、よるになってしまって、こわくて ないてしまったのよ」

「どうしたら こわくなくなったの?」

リンコヤンは、火のまえで 手をあたためながら、

ふしぎそうに ききました。

「とうさんが、すてきな おはなしをきかせてくれたの。

その日から、もう よるがこわくなくなったわ。

フクロウの目がひかっても、カエルのなきごえがきこえても

よるはこわくないのよ。おひさまがしずむと、すてきなことがたくさんおこるから」

おかあさんは、いいました。

「ねえ、ぼくにも そのはなし きかせて!」

リンコヤンは、ワクワクしながら いいました。

ふたりは、おばあちゃんの あんだもうふに からだをうずめました。

リンコヤンは、からだをまるくして、おかあさんにくっつきました。

おかあさんは、ゆっくりと はなしをはじめました。

………

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