ころりん ころらど

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~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

ブイナイマのゆめ

2021年9月6日

  • タイトル
    世界のはじまり―ブイナイマの夢 (ウイトト族のはなし)―
  • 原題
    El sueño de Buinaima
  • 作者
    レンベル・ヤワルカ-ニ(Rember Yahuarcani)
  • 発行年
    2010年
  • 出版社
    ペルー サンティジャナ・グル―プの児童書籍出版部
    「アルファグラ・インファンティル フベニル(Alfaguara Infantil Juvenil)」

あらすじ

世界の起源をえがいた作品です。夢見る神ブイナイマが大地に命をふきこみ、水の女神ブイニャイノが雨をふらせて虹にすがたをかえ、大地の上にアーチをつくりながら空がおちないようにささえている…。お話は4話で構成されていますが、その中の『夢の神ブイナイマと女神ブイニャイノ』を、ちょこっとご紹介したいと思います。

夢の神ブイナイマと女神ブイニャイノ

夢の神さまブイナイマは、水の浅瀬にすわり夢をみていました。あたりはいちめん、ただ水とくらやみしかありません。ブイナイマは たいくつでしかたがありませんでした。そこで、手のひらにつばをふきかけ、手をこすりあわせ あたためることにしたのです。それから水にむかって つばをとばしはじめました。ひとふきするたびに、ウウウウウウウー、ウウウウウウウ―と、水の輪がひろがっていきました。

水は しだいに かたまっていき、ちいさな ねんどのしまができました。そこでブイナイマは、円をかくようにゆっくりと あるきはじめることにしました。いっぽ、いっぽすすむにつれて、だんだんと大きなかたまりができて、地球になっていきました。地球は ゆっくりとまわりはじめ、まるくなりながら ねんどをのばしたような たいらな土地が ひろがっていきました。それから大平原や岩山がうまれ、地球の果てまで 人でいっぱいになっていったのです。

水の女神ブイニャイノは、ふかくつめたい水のながれとともに 生きていました。ブイニャイノは、夢の神ブイナイマの永遠のつれあいでした。ブイニャイノがごきげんだと、大地は しずかな海に守られながらおだやかにすごすことができます。でも、ブイニャイノが怒りをあらわにすると、たちまち嵐がおこり、大地はゆさぶられ、海の思うがままになるのです。波による一撃は大地をめちゃくちゃにしてしまいます。夢の神ブイナイマのつくりあげた夢の世界も、いつ終わってしまうかもしれない危険にさらされていたのです。

雨があがり 空にたいようがきらめくと、へびの尾をしたにんぎょすがたのブイニャイノが、すいめんからとびだし、はんとうめいのにじに すがたをかえます。ほっそりとしたからだで、大地の上にアーチをつくり、空がおちないようにささえているのです。

なぜって、空はいえのやねのようなものだから。はげしい雨のあと、にじが空をささえにあらわれなければ、空はくずれおち、大地にあるものをすべて ぺしゃんこにしてしまうかもしれません。そうすれば、すべては ふたたび、たいようのないえいえんとつづく くらいみずの世界にもどってしまうのです。

受賞について

ペルーの児童文学は、ここ10年で急成長を遂げているそうです。2003年には年間児童書席数が35点だったのに対し、2007年には120点にも及びました。また、児童書のコンクールは、出版社の協力の下で年に2回行われていますが、今回、初めて絵本のコンクールが行われました。

今回の絵本『ブイナイマの夢』は、新人の絵本作家発掘を目的に、2009年読書推進プランの一環として催された第1回絵本コンクール「カルロタ・カルバジョ・デ・ムニェス」賞受賞の作品です。IBBYペルー代表でもある児童文学情報資料センター(CEDILIJ)とリマ・スペイン文化センターが共同主催、出版社サンティアジャ・グループが後援となっており、審査員たちはペルーでも有名な作家、詩人、出版界の専門家たちで構成されています。

作者について

作・絵: レンベル・ヤワルカ-ニ(Rember Yahuarcani)

1985年、ペルーのロレト生まれ。アマゾン造形美術アーティスト。画家である父の影響を受け、7歳から絵を描き始める。その後、村に口承で伝えられてきたウイトト族の起源および自然や伝統を伴う説話を基に自ら物語を書きはじめる。現在はリマ在住。

2009年に開催された個展

『地平線は記憶のかなた(サンマルコス大学美術館にて)

『11の月―ウイトト族のカレンダーの記録―』(リマのパンチョ・フィエロアートギャラリーにて)

その他、リマのアートギャラリーで展覧会を開催後、アルゼンチン、エクアドル、ロンドンでの展覧会を開催。また、カタログ誌『創造主の夢』を製作中(歴史、アート、心理学、ジャーナリズム、考古学、詩に至るまで様々な分野の解説を通じて、アマゾン文化の世界を紹介する)。

新聞の書評

ペルー最大手日刊紙 「ラ・レプブリカ」2010年8月1日 掲載記事


彼の作品にはファンタジーと神話が盛り込まれ、夢と現実が入りまじっている。作者レンベル・ヤワルカ-ニは、ウイトト文化で語り継がれている神たちを自らの絵にとらえ、『ブイナイマの夢』という作品に仕上げた。この本は、素晴らしいアマゾンの世界での天地創造を語っている。

レンベル・ヤワルカ-ニは、物心ついた頃から絵を描いてきた。父親が画家であったため、父の仕事を手伝うのが日課だった。彼の住むぺバス村は、ペルー北東部のイキトス県から20時間あまりかけてようやくたどり着くことのできる、アマゾン奥地にある小さな村だ。夜は数えきれない星と密林の無数の色彩に包まれながら眠る。そして祖母からウイトト族に伝わる伝説や神話を聞きながら、彼は育った。

祖母から聞いた神話は、おおよそ次のようなものだ。「すべては夢の一部にすぎない。ある日、ブイナイマの神が人間や動物、植物をつくろうと夢見た。そして夢の中で、自分の父親が川に唾を吐きかけるように言ったため、その通りにすると、そこから大地がつくられた。その後、ベニノキの木の種を手に入れ、それに歌を歌ったところ、種が育ち人間がつくられた」。我々の存在は神の見る夢にすぎない。ウイトト族にとって、夢で見たことは現実と同じぐらい大事なことだそうだ。「今こうして話していることも、実は夢なのかもしれない」レンベルは、我々が困惑するのを楽しんでいるかのように言った。(以下省略)

ペルー最大手日刊紙 「ラ・レプブリカ」2010年8月28日 掲載記事

2005年の終わり、編集部へ戻る帰り道だった。国立図書館の前を通った時、週末の文化イベントのプログラムにふと目が止まった。中の会場に入ると、トラがこちらをじっと見ていた。だが、それは四足の静止したトラではなく、木のキャンバスに描かれた絵のトラだった。我々は何も言わずにその場を後にしたが、すぐに今度は撮影担当を連れてもう一度そこへ戻った。これが、レンベル・ヤワルカーニの絵を初めて取材した時のことだ。
(以下、中略)
この物語には、ウイトト族の世界、信仰、神話、そして新たな時代に立ち向かうレンベル・ヤワルカーニ独自の手法が流れるように表現されている。語り手であり画家でもある彼が示すのは、人類学的な証言ではなく、彼が記憶していること、実際に見たもの、ウイトト族が思い描くものをただ語っているのである。また、この作品はストーリーの内容が素晴らしいだけではない。読者は彼の明快な言葉選びや文章に魅せられるに違いない。

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