ころりん ころらど

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~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

キワラ はじめてのうみ

2021年9月6日

  • 原題
    Kiwala conoce el mar
  • アナ・マリア・パベス(Ana María Pavez)/コンスタンサ・レカルト(Constanza Recart)
  • パロマ・バルディビア(Paloma Valdivia)
  • 発行年
    2001年
  • 出版社
    La editorial Amanuta (アマヌタ社)
  • その他
    2001年 ブラチスラバ・ビエンナーレイラスト賞受賞

あらすじ

リャマのキワラは海を見たことがありません。そこで、山をおりて海へ旅にでることにしました。さっそく、友だちのアルパカとビクーニャをさそいますが、いそがしいとことわられてしまいます。かわりに、毛糸を持っていくように言われ、キワラはそれを持って、海へむけて出発することにしました。でも、道も分からないキワラの不安はつのるばかり。

そこへ、ふとあらわれたコンドルに、キワラはおもいきって旅にさそいます。のりきになってくれたコンドルと話をしているところへ、今度はピューマがしのびよってきました。キワラはこわがらずに、ピューマにわけを話すと、ピューマもいっしょについていってくれることになりました。コンドルは空のシンボル、ピューマは大地のシンボル、この2ひきの最強の友といっしょに、キワラは旅に出発します。そして、山をおりていくとちゅう、今度はヘビに出会います。海を見たことがないというヘビの話を聞き、キワラはヘビも旅にさそいます。こうして、4ひきのなかまの旅がつづき、ついに海へとたどりつくのです。

はてしなく広がる青い海におどろくキワラたち。そこへ、水しぶきをあげた巨大なクジラがあらわれ、なんと海のさんぽへ連れて行ってくれることになりました。キワラたちは海に生きるめずらしい生き物に出会い、楽しい時間をすごします。

最後に、キワラは持ってきた毛糸をクジラにプレゼントし、かわりに、クジラはみんなにきれいな貝殻をおくります。よろこびでいっぱいになりながら、キワラは海の旅を終えるのです。

(対象年齢:5~8歳)

感想

2001年、技師でありテキスタイル・アーティストのアナ・マリア・パベスは、小児精神科医のコンスタンサ・レカルトとともにアマヌタ出版社を設立。以後、子供向けの絵本やアニメーションを通じて、先住民の文化の伝承・継承を発展させるための活動を行ってきました。自然の風景や歴史、生まれ故郷のアイデンティティを救出することを目的として、初めて出版されたのが本作品『キワラ はじめてのうみ』でした。

2001年以降、この作品はチリ政府・教育省の推薦図書として全国の図書館を通じ、チリ中の子どもたちにキワラシリーズとして広く親しまれるようになりました。特に、『キワラ はじめてのうみ』は劇作品となり、チリ地震の全被災地で上演されたことから、子どもたちの間で長く愛される作品となり、現在までに第6版が刊行されています。

なお、キワラシリーズは、全部で4シリーズ出版されています。

キワラ、はじめてのうみ
2001年

キワラ、ジャングルへいく
2002年
キワラ、銅のリャマ
2004年

キワラと月
2004年

作品を通じて、作者はアンデスの人々の伝説や信仰、慣習および価値観といったものを伝えています。イラストを担当したパロマ・バルディビアは、プレ・コロンビアン・アートのイコノグラフィー(図像)からインスピレーションを受けてこの作品の絵を描いたそうです。また、この絵本は、2001年のブラチスラバ・ビエンナーレイラスト賞を受賞しました。

ストーリーは、動物の視線を通して、アンデスの人々の暮らしぶりが語られています。リャマ、ビクーニャ、アルパカそしてコンドルにピューマ。どれもアンデスの高原に消息する動物たちです。こうした個性的な登場人物が現れる絵本はとてもめずらしく、しかも絵柄が個性的かつ可愛らしく、古びた感じがまったくしないのです。さらに、アンデスの人々の暮らしや文化を伝えたいという、強いメッセージも受け取ることができます。

アルパカは、今や日本ではテレビCMをきっかけに子どもたちの間でも人気の動物になっているようです。また、コンドルについては、『コンドルがとんでいく』の歌を聴いたことがある人も多いのではないでしょうか。アンデスの人々の暮らしぶりを紹介する素敵な絵本です。

作者について

文: アナ・マリア・パベス(Ana María Pávez

アマヌタ社で、子供向けの絵本を通じて、先住民の文化の伝承、継承を発展させるための教育活動に従事している。今までに携わってきた先住民の暮らしに関する絵本は、編集等含め18冊にのぼる。さらに、プレ・コロンビアン・アート・チリ博物館でコンサルタントとして活躍する他、マヤ、ケチュアの神話をベースにしたアニメーション作品を制作。エール大学で考古学の博士号を取得。チリのサンティアゴ在住。

(インターネットのサイト“Native Network” より 本人のコメント)

「私の仕事は、ラテン・アメリカの先住民の過去および現在の暮らしを子どもたちに広めていくことです。歴史、神話、伝説を通じて、子どもたちに彼らの知恵、信仰、慣習、生活様式を知ってもらい、学んでもらいたいと願っています。現代の子どもたちが、先住民の人々が暮らす社会を、今後も尊重し価値のあるものとして認めていけるように…」

コンスタンサ・レカルト(Constanza Recart

小児精神科医。先住民文化の継承・伝承に興味があり、それが子どものアイデンティティーの確立および形成に大事なテーマであると考え、2001年、友人のアナ・マリア・パベスとともにアマヌタ社を設立。精神科医として子どもの世界に詳しいことから、先住民の文化および社会的遺産の知識を持つパベス女史と ともに、共同で多くの作品を執筆している。

イラスト:パロマ・バルディビア(Paloma Valdivia

1978年生まれ。イラストレーター。チリカトリック大学でデザインを学ぶ。ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞金牌(BIB Plaque)など多くの受賞歴を持ち、今までに15冊におよぶ絵本のイラストを手掛けている。チリのカトリック大学のワークショップで絵の講師をしている時、アナ・マリア・パベスと出会う。メキシコやチリのプレ・コロンビアン・アートに関心が深く、そこからインスピレーションを受けてこの作品を描いている。現在は、スペインのバルセロナに滞在。2009年、初の創作絵本『Los de arriba y los de abajo(上の世界の人びと、下の世界の人びと)』をスペインで出版。スペイン語、カタラン語、ガリシア語、イタリア語、ポルトガル語に翻訳されている。

おはなしの一部

アンデスさんみゃくの ちいさなむらに、

キワラというなまえの リャマが すんでいました。

キワラは、しろく やわらかい けをしていました。

はしったり、あそんだり、とびはねたりするのが だいすき。

でも、なにより いちばんすきなのは、

おかあさんに あまえることでした。

キワラは、とても しりたがりやでした。

もっと むこうには なにがあるんだろう?

おひさまが かくれる やまのふもとは

どんなふうになっているんだろう?

しりたくて しりたくて しかたがありません。

キワラは、いちども むらをでたことが なかったのです。

………

クジラは、ゆめのように うつくしい

かいがらを みんなに くれました。

キワラ、ピューマ、ヘビ、そしてコンドルは、

かいがらのうつくしさに、うっとりしました。

たしか ずっとまえ、これににたものを みたことがありました。

むらに だいじな おきゃくさまが きたときにだけ

みることのできる とても めずらしい かいがらでした。

みんなは、かいがらで くびかざりをつくると

それぞれのくびに かけました。

「クジラさん、ありがとう」

4ひきは、よろこびで いっぱいになりながら おれいをいいました。

「また、あおう」

クジラは、そういうと、どこともなく かえっていきました。

「さようなら!しんせつなクジラさん!」 4ひきは、こえをそろえて いいました。

こうして、キワラ、ヘビ、コンドル、そしてピューマは、

いえにもどることにしたのです。くびには かいがらの くびかざり、

こころには おもいでと きぼうを いっぱいにつめこんで。

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