ころりん ころらど

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~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

くもとあそぼう

2021年9月6日

  • 原題
    Con la cabeza en las nubes
  • 作者
    ルス・カウフマン(Ruth Kaufman)、ディエゴ・ビアンキ(Diego Bianki)
  • 発行年
    2009年
  • 出版社
    PEQUEÑO EDITOR (ペケーニョ・エディトール)
    アルゼンチンの子ども向け専門出版社

あらすじ

この本は雲の写真絵本で、ぬりえやお絵かきもできます。前半はアーティストの視点から、後半は科学の視点から雲を観察していきます。まず前半では、写真家たちが撮ったいろんな国の雲の写真に、イラストレーターたちがその写真からインスピレーションを受けた絵を描きそえています。個性溢れる楽しい雲の写真とかわいらしいイラストを楽しめるだけでなく、ワークブックのように読者も自分で雲に絵を描きそえたり、色をぬったりしながら一緒に参加することができます。そして後半では、雲のふしぎについて質問形式で展開していきます。科学の視点に立って雲を観察し、それぞれ雲の名前や特徴をやさしく学べるしくみになっています。(対象年齢:6歳から)

感想

『くもとあそぼう』は、アルゼンチンの子ども向け専門出版社「ペケーニョ・エディトール」の編集局長ディエゴ・ビアンキと書籍編集部のルス・カウフマンの二人が中心となり、いろんな国のアーティストの協力の下に実現した「雲」の本です。2011年ボローニャブックフェアで、ホワイトレイブンに選ばれました。

子どもたちと一緒になって読んでみたのですが、走りながらスープを運ぶカバに見立てた雲や、空高くとぶカエルの絵の雲など、個性豊なイラストに子どもたちも大うけして笑っていました。雲の色々な形を見るだけでも楽しいのに、さらに描きそえられたアーティストたちによる個性豊な絵が、あそび心いっぱいで楽しませてくれます。

また、この本は雲を見て楽しむだけでなく、ワークブックのように読者が一緒に参加できるようになっています。そして後半では、科学の視点から雲について学べるしくみになっています。雲が落ちない理由などが質問形式でやさしく解説されていて、雲の名前や特徴を学んでいくことができるのです。でもけっして、学習傾向の強い解説中心の本ではありません。たとえば、雲の重さを80頭のゾウとおなじ重さにたとえるなど、楽しく遊べて学べる、しかも創造力を養うことのできる魅力的な雲の本なのです。

日本では、学習指要領の変更により、理科では力学系の授業が増えるようですね。また、子どもたちの科学離れを懸念する声もあって、学校や家庭で科学の本を求める動きが出てきているといわれています。ゆとり教育も終わり、これから詰め込み型の教育になっていくんでしょうね。でも、テストのためだけに雲の名前を覚えるのではなくて、空を見上げて雲をただただ眺めるぜいたくな時間を、ぜひ子どもの頃はたくさん味わってほしいなと思います。この本を読んで、私は何十年ぶりといってよいくらい、ひさしぶりに雲をながめました。すごくぜいたくな楽しい時間でした!

作者について

ディエゴ・ビアンキ(Diego・Bianki)

1963年、アルゼンチンのプラタ生まれ。イラストレーター、デザイナー、編集者。国内及びヨーロッパの新聞や雑誌のイラストを手掛ける他、児童書の分野でも幅広く活躍している。2003年『Restoran』では、2005年のホワイトレイブン(ミュンヘン国際児童図書館の優良図書)に選ばれた。2003年より、作家のルス・カウフマンと一緒に出版社ペケーニョ・エディトールを設立、責任編集およびアートディレクターを務める。

ルス・カウフマン(Ruth Kaufman)

1961年、アルゼンチンのブエノス・アイレス生まれ。作家、編集者。教師を務めた後、児童・大人向けに文章講座やアートに関するワークショップを企画するなど幅広く活動を展開した後、自らも作家として児童書や詩の本を出版している。2003年より、ペケーニョエディトール社で編集者としても活躍している。ウルグアイのコロニア在住。

書評

アルゼンチンの新聞の書評2010年6月20日掲載『パヒナ12 』文化欄特集記事

―撮影した空に、イラストレーターやアーティストたちが雲に絵をそえる―

空に描かれているのは、人間や怪物や動物たち、そして私たちが普段目にしている場面の数々。写真絵本『くもとあそぼう』は、インスピレーションに富んだ新しい試みの本である。ディエゴ・ビアンキが中心となり、イソル*¹やグスティ*²といった有名イラストレーターや写真家たちの協力を得て、この不思議な本は誕生した。

この本は、雲の写真を眺めながら何かに見立て絵を添えたり、色をぬったりすることができるようになっている。また、後半では、科学の視点で雲についてより理解を深めることができるようになっている。ディエゴ・ビアンキが多くのアーティストたちと共同作業を進めながら、構想を練り編集作業を経て、ついに他に類を見ないほど美しい一冊の本に仕上げた。本の成り立ちについて、ビアンキは以下のように述べている。

「海で寝そべって、雲が通りすぎていくのを見ながら、その形を別のものに見立てて遊んでいた。その時、この本の構想がうかび、本のイメージが自然に頭の中でふくらんでいったんだ。本の中で空を何かに見立て絵にしていく。もちろん、その時はまだ実際に紙の上でそれをどう実現するかは決まっていなかったのだけれど。とにかく、まずは自分でやってみることにした。カメラをつかみ、雲の写真を撮った。それ以来ずっと雲の写真を撮り続けている。もう、撮影した写真は4000を超えていて、まだその数は増え続けている」―中略―

『くもとあそぼう』のような本に結末はない。常に新たなものを発見していけるのは、果てしなく広がる立派な雲たちには、とどまる場所がないからだろう。ビアンキは言う。 「この本にある雲はどれも100パーセント本物で、デジタル修正をしたものは一つもない。基本的な考えた方として、やはり雲を何かに見立てて遊ぶという普遍的な想像上の遊びに近いものである、この本の存在意義を損ねてしまうからね」―中略―

『くもとあそぼう』は、子どもだけでなく大人のための本でもある。

*¹イソル:

1972年、アルゼンチン生まれ。。ブエノスアイレス大学で学び、漫画や詩、絵画の分野で働いていたが、現在は広告や挿絵画家の仕事に専念している。2006年のリンドグレーン記念文学賞にノミネートされている。国際アンデルセン賞 画家賞2008年、2006年最終候補者

*²グスティ:

1963年、アルゼンチン生まれ。イラストレーター兼絵本作家。児童書のイラストを手掛け、スペイン語圏だけでなく、世界各国で彼の絵本は翻訳されている。スペインで歴史ある児童文学賞のラサリーリョ賞(絵本部門)の他、BIB金のりんご賞、フンセダ賞等、多数の受賞歴を持つ。また、アニメーションの仕事にも携わっている。スペインのバルセロナに在住。邦訳作品『なかよくなんかならないよ(2000年文化出版局)』、『テントとおともだち(2002年)』等、テントシリーズは全6冊、『ハエくん(2007年フレーベル館)』。

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