ころりん ころらど

ころりん ころらど
~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

にげろ!トルティーリャ

2021年9月6日

  • 原題
    La Tortilla Corredora
  • 作者
    ラウラ・エレーラ(Laura Herrera)
  • スカーレット・ナルシーソ(Scarlet Narciso)
  • 発行年
    2010年
  • 出版社
    エカレ社(Ediciones Ekare)
  • その他
    ― おむすび ころりん すっとんとん ころころころりん すっとんとん―

    リズミカルな文体やくりかえしの表現が魅力の昔ばなし「おむすびころりん」。当時、小学校1年だったチビが、音読の宿題で歌いながら読んでくれました。小学校の新学習指導要領の改訂で「生涯にわたって古典に親しむ態度を育成する」ために、こうした古典や民話が重視されているようですね。

    ところで、「おむすびころりん」は転がったおむすびを追いかけたおじいさんが、穴に落ちてネズミたちに出会い、こづちをもらって幸せにくらすおはなし。では、ほかの国でも、これに似たおはなしはあるのでしょうか…?

    どうやら海外では、おいしそうな食べ物が主人公で、食べられそうになりながらも必死で逃げるというお話がたくさんあるようなのです。例えば、欧米で有名なのが『ジンジャーブレッドマン』。オーブンで焼かれていたにんぎょう型のしょうがクッキーが、オーブンから飛び出して逃げ出すおはなし。日本では『しょうがパンぼうや (福音館書店)』が邦訳されています。また、ロシアの民話で『おだんごパン(福音館)』というのもあるようです。設定こそ違いますが、内容や展開はとてもよく似ています。日本では、おむすびがころがるという受身的なものなのに対して、海外では、食べ物が自らが逃げる!というところがなんとも文化の違いを感じますね。

    そして、ラテンアメリカにも同じようなおはなしがあります。今回は南米チリの昔ばなし『にげろ!トルティーヤ』のご紹介です。

    ちなみに、トルティーヤとは、トウモロコシの粉でつくった伝統的な薄焼きパンのことです。

あらすじ

ある日、おなかをすかせた7人の子どもたちのために、おかあさんがトルティーヤをつくりました。こんがりとやきあがったおいしそうなトルティーヤ。でも、おかあさんがトルティーヤを火からとりだしたとたん、トルティーヤがするりとおかあさんの手をすりぬけて、にげだしたのです!はしる!はしる!トルティーヤ!あとから、お母さんと7人のおなかをすかせた子どもたちがトルティーヤをおいかけます。とちゅうで、ニワトリ、ウシ、イヌ、そしてブタに出会い…。さてさて、トルティーヤの運命はいかに…!?

最後は、ブタに食べられておしまいという結末が一般的なのだそうですが、この絵本はちょっとちがいます。なんと、トルティーヤはとうとう逃げきってしまうのです。夢を果たし、世界中をめぐるトルティーヤ!なんとも楽しい結末です。

なお、イラストを担当しているスカーレット・ナルシーソは、北米のカルフォルニア州のバークレーに在住のベネズエラ人アーティスト。水彩、アクリル、鉛筆を駆使したアナログ技術とデジタル技術とを上手く組みあわせ自然なイラストに仕上げています。

おはなしのいちぶ

むかしあるところに、おかあさんと7人の子どもたちが くらしていました。

子どもたちは、とてもおなかをすかせていました。

ある日、おかあさんは おいしそうなトルティーヤをつくろうと、すみ火のうえにトルティーヤをおきました。

7人の子どもたちは、トルティーヤを じっとみていました。
トルティーヤも、7人の子どもたちを じっとみていました。

トルティーヤができあがりました。おかあさんがトルティーヤを火からとりだし、ハンカチでつつもうとしたそのときです。トルティーヤがするりとおかあさんの手をすりぬけて、にげだしたのです!

・・・・・・

ちょうどそこへ、ニワトリがあらわれました。

―そんなにいそいで、どこへいく?おまえ、うまそうだな―

・・・・・・

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