ゲマルジカ
2021年9月13日
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原題El Huemul
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文ペルラ・スエス(Perla Suez)
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絵ナタリア・コロンボ(Natalia Colombo)
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発行年2014年
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出版社コムニカールテ社 (Editorial Comunicarte)
本書について
しずかなやさしい雨がふりそそぐ森で少年が出会ったのは…?自然と一体になる少年の心の動きを美しくえがいた作品。「ぼく」の一人称の語りは一遍の詩を読んでいるみたい。ひとりですごす静かな時間も素敵だよって、子どもたちに伝えたい時は、この絵本を選ぶかもしれません。しずかでやさしい作品。幻想的な絵に引き込まれていきます。
「ゲマルジカ」とは?
「シカ科の哺乳類。チリ南部のアンデスとパタゴニアに分布。頭胴長1.5~1.6メートル。絶滅が心配されている。(デジタル大辞泉より)」
作者について
文:ペルラ・スエス(Perla Suez)
作家。アルゼンチン、コルドバ生まれ。大学では近代文学を専攻。児童文学普及・調査センター創立および理事に従事し、児童文学専門誌『Piedra Libre(自由な石)』を創刊した。ホセ・マルティ児童文学賞特別賞(2008年)、アルゼンチン国民小説賞(2013)等、受賞歴多数。絵本作品に『Un oso(いっぴきのクマ)』、『El hombrecito de polvo(パウダーマン)』、『Las flores de hielo(こおりのはな)』(いずれもコムニカールテ社刊)などがある。
絵:ナタリア・コロンボ(Natalia Colombo)
イラストレーター、グラフィックデザイナー。1971年アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。ブエノスアイレス大学で建築を専攻、都市デザインを学ぶ。スペイン、フランス、メキシコ、アメリカ、ブラジルの出版社で絵本のイラストを担当。また、個展やグループ展にも多く参加している。2008年コンポステーラ国際絵本賞受賞。
書評
ペルラ・スエスの やさしさに あふれる絵本 『ゲマルジカ』
アルゼンチン国営通信TELAM文化欄掲載記事 要約(2014年6月3日付)
ぼくは おぼえてる。
はだしで、森へはいっていった あの日のことを。
ひんやり しめったじめんに 足をふみしめると
やわらかい つちのなかに、つまさきが しずんでいった。
このくだりではじまる絵本『ゲマルジカ』は、人間と自然のありかたについて、私たち読者を導いてくれる作品だ。ナタリア・コロンボのイラストとともに、森のざわめきを忘れ、小雨が体にしみこみんでいく中、私たちは自然の一部になる素晴らしい感覚につつまれる。作者スエスは、国立コルドバ大学出身の近代文学を専門とする教授だが、作家として活躍しており、大人向け子ども向け様々な作品を手掛けている。彼女の著書はイタリア語、フランス語、ロシア語、ドイツ語に翻訳されている。
おはなしのいちぶ
ぼくは おぼえている。
はだしで、森へ はいっていった あの日のことを。
ひんやり しめったじめんに 足をふみしめると
やわらかい つちのなかに、つまさきが しずんでいった。
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やさしい雨が、ぼくを つつむ。
ふと、石のうえに すわっていた ぼくのさきにいたのは ゲマルジカ。
じっと、こちらを みていた。
シカは、ふしぎなことばで ぼくの なまえを よんだ。
もっと ふしぎだったのは、ぼくに そのことばが わかったこと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いま ぼくは、いちまいの はっぱの みゃくのなかで
ぼくのなかに はしる 川を みたきがした。
川の水には、ぼくが うつっている。
ぼくは、シカになっていたんだ。
あの日のことを おもいだすたびに
ぼくをよぶ あの とりのなきごえが きこえてくる。
ショアン、ショアン…
ぼくは、森へ また かえりたくなる。