ころりん ころらど

ころりん ころらど
~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

かるわざし

2021年9月13日

  • 原題
    el contorsionista
  • ミカエラ・チリフ(Micaela Chirif)
  • ルイス・カステジャーノス(Luis Castellanos)
  • 発行年
    2011年
  • 出版社
    リマ美術館(Museo de Arte de Lima)/ ポリフォニア出版社(Polifonía Editora)

リマ美術館は、教育文化振興を目的としたコンチネンタル銀行財団の後援の下、絵本シリーズを出版することになりました。2011年より開始し、全8作品を予定しています。2014年現在まで、そのうちの4冊が出版されています。その第1作目の作品が、作家のミカエラ・チリフさんとルイス・カステジャーノスさんによる『かるわざし』です。この作品は、プレ・コロンビア期のクピスニケ文化の美しい土器「軽業師(El Contorsionista)』にインスピレーションをかりたてられ創作へと至ったのだそうです。

あらすじ

チャオさんは、村でいちばん ものしりで りっぱな男でした。雨がいつふるか、太陽がいつあらわれるのか、月のみちかけはいつなのか、ぴったり あてることができるのです。チャオさんがあまりにりっぱな人だったので、村の人たちは おそれおおくて、チャオさんに はなしかけることもできませんでした。

チャオさんには、クピという ひとりむすこがいました。クピは とてもしりたがりやで、いつもあれこれしつもんばかり。クピがたずねると、チャオさんは きまってこういいます。「いつか わかる。いまは よく みておきなさい。しつもんばかりするでないぞ。」

ある日のこと、ゆうめいなとうげいかが 村へやってくることになりました。チャオさんをモデルに 作品をつくることになったのです。チャオさんは その日にそなえて、いつもより はやくねむることにしました。

ところが、うつらうつらゆめをみはじめたころでした。とつぜん、チャオさんの耳もとで、ブーンという 蚊のなく音がきこえてきたのです。ねむりのじゃまをする蚊を、ほおっておくことはできません。チャオさんは 蚊をつかまえようとしますが、蚊はすばしこくにげまわるばかり。しまいには、おでこやせなかまでさされるしまつ。もう かゆくてたまりません!こうして、チャオさんと蚊のたたかいは ひとばんじゅうつづいたのです。

あさになり、みんながチャオさんをむかえにやってきました。ところが、チャオさんの体は まったく いうことをききません。それもそのはず、蚊とひとばんじゅうたたかううちに、チャオさんの体はどうやら こんがらがってしまったようです。

「すばらしい!」
ところが、そんなチャオさんを前に、とうげいかは大よろこび!チャオさんは、はずかしいやら うれしいやら…。この日から、体をひねるあそびが おおはやり。かるわざしのあそびとして、みんながまねするようになりました。

「どうやって あのポーズは うまれたの?」しりたがりやのクピが たずねます。
「しつもんばかりするでないぞ。」いつものように、チャオさんは こたえます。チャオさんの耳もとでは、あのちっちゃな蚊が くすっとわらっています。

作者について

文:ミカエラ・チリフ(Micaela Chirif)

詩人、絵本作家。ペルーカトリック大学で哲学を学ぶ。2001年に初の詩集『帰路で(De vuelta)』を出版後、2008年『ありふれた空(cualquier cielo)』、2012年にはスペインの出版社から『枕に頭をのせて(Sobre mi almohada una cabeza)』の3詩集を発表している。絵本作品では、2008年にホセ・ワタナベ氏との共著『アントニオさんとアホウドリ(Don Antonio y el albatros)』、その後2009年に『おやすみなさい、マルティーナ(Buenas noches, Martina)』、2010年『ことばのかたちについて(En forma de palabras)』、2011年『かるわざし(El contorsionista)』、2013年『あさごはん(Desayuno)』を出版した。2013年には、『おりこうだね、マストドン(Ma’s te vale mastodonte)<作 ミカエラ・チリフ、絵 イッサ・ワタナベ>』が、メキシコのフォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ社 (FCE) 主催の第17回絵本コンクールで、「風の岸辺賞(A la orilla del viento)」を受賞した。現在、リマ在住。

作者による本書のコメント

「絵本『かるわざし』は、芸術作品に触れる際に異なった角度を示そうとしています。また、この本をきっかけにして、実際に美術館を訪れて、歴史を語る展示品を直接鑑賞したいという気持ちを起こそうとしているのです。絵本には、CG技術の要素も含まれています。そして巻末には、作品の起源、用途、素材、その他歴史的なデータも説明されています。」

絵:ルイス・カステジャーノス(Luis Castellanos)

1973年生まれ。ペルーの現代芸術家。17歳のときに国立芸術学院に入学し、1996年に卒業。24歳の時に初めて賞を受賞し、その後、奨学金を得てヨーロッパに滞在した。帰国後、様々な賞を受賞しながら個展も開催している。

感想

美術館所蔵の作品が絵本のお話の登場人物になっていたり、その時代を背景にしている絵本になっているため、物語を読み終わった後、美術館を訪れてオリジナルの作品を鑑賞してもらいたいというリマ美術館の試みの下、このプロジェクトが開始しました。確かに子どもの頃、社会科見学などで訪れた博物館は、静かにしていなくてはいけない場所で、作品も正直とっつきにくいものでした。土器などを見ても、そこに見え隠れする歴史を想像するということもなく、ただ目の前にあるものを見るだけだったような気がします。美術館による絵本プロジェクト、なかなか面白いですね。絵本から入った子どもは、実際に美術館を訪れた時、「あっ!あの作品だ!」と、うれしくなるでしょう。自分が見たかった作品があるだけで、とっつきにくかった美術館は特別な場所になるのではないでしょうか?美術館とコラボした絵本プロジェクト、なかなかどうして、素晴らしい!

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