道はみんなのもの
2021年9月13日
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原題LA CALLE ES LIBRE
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発行年1981年
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出版社エカレ社(ベネズエラの出版社)
2013年、日本語版『道はみんなのもの』が、さえら書房より出版されました。
この作品は、13カ国で翻訳出版されている、ベネズエラのロングセラー絵本です。
あらすじ
南米ペネズエラの首都カラカスには、町を取りかこむ山の斜面に、急ごしらえのそまつな家がたちならぶバリオと呼ばれる低所得者層の集落があります。国の工業化が進み、首都の人口増加に対する受け入れ体制が整わないうちに、たくさんの人々が都市部に集まり、住む場所もままならず、仕方なく荒地に仮設の小屋を建てて暮らすようになったのです。
バリオの急斜面には、たくさんの家がひしめきあって建っているため、そこに住む子どもたちは遊ぶ場所がありません。「遊ぶ場所がほしいんです!」子どもたちは、図書館員さんのアドバイスをうけて横断幕を作り、おもいきって役所に願い出ることにしました。
ところが役所では門前払い、子どもたちはまったく相手にしてもらえません。しまいに警察の人たちまでやってきて、だんだんさわぎは大きくなるばかり…。しかし、協力者もあらわれました。地元の新聞記者がこのさわぎを記事にしてくれたおかげで、市議会議員が広場を作ってくれると約束してくれたのです。けれど、けっきょくそれも選挙のための口約束にすぎませんでした。とうとう、公園はつくってはもらえなかったのです。
それでも、子どもたちは あきらめません。しだいに親たちも心を動かされ、公園づくりを真剣に考えるようになりました。みんなができることを見つけ、動きだしました。そしてとうとうバリオの住人たちが自分たちの手で、自分たちの公園をつくったのです。みんなが思いっきり遊べる公園を。
作者について(以下、本書からの抜粋)
文:クルーサカラカス生まれ。幼いときは、コスタリカ、アメリカなどですごした。カナダの大学で人類学を学んだ後、図書館と子どもの本の仕事を始める。カラカス在住。IBBY(国際児童図書評議会)の元会長。
絵:モニカ・ドペルト
ベルリン生まれ。15年以上カラカスでくらし、そこでデザイン学校の教師をしていた。人物や風景を写実的に描くのを得意としている。2009年ホーレス・マン賞を受賞
訳者:岡野/富茂子
下関生まれ。結婚後数年、ベネズエラに暮らす。子どもの関係の様々な活動や里山保全の活動を経てプレイパークを始める。YPCネット理事。港南台タウンカフェスタッフ
訳者:岡野/恭介
兵庫県生まれ。大阪外国語大学イスパニア語科から昭和電工(株)へ。1978年~1983年ベネズエラ駐在、現在もベネズエラ関係の仕事に携わっている
感想
この作品は、ベネズエラの滞在経験のある人なら、誰もがうわぁーと懐かしさでいっぱいになるような絵本です。絵について言うならば、とにかく、あるある感がいっぱいなのです。例えば、お母さんたちのむっちりとした体型に体の線が露わになったピチピチの派手目の服装、子どもたちの短パンとランニング姿、カリブの少女が着る夏のヒラヒラワンピース、市議会議員や役人の高慢で意地悪そうな顔つき、メスティーソが主流のバリオの子どもたちの豊かな表情、それから…
さりげなくクアトロを弾いている子どもの姿、バケツをパーカッションの代わりに使う少年、バリオに住む子だくさんの家族の様子、上半身が裸のジーンズ姿のおじさん、そして風景画としては、緑の少なくなったランチョの家並みや色あせ乾いた感じの色彩などなど…懐かしさでいっぱいになります。画家はドイツの方のようですが、こうした絵は、ベネズエラをよく知る人にしか描けない絵です。
お話もいいですね。
実話をもとにしているだけあって、リアリティがあります。最後に、住民たちの力で公園が実現するというのは、現実にはなかなか難しいでしょうが、これは絵本なので、希望にあふれる終わり方に、勇気をもらう人はたくさんいるでしょう。
現実には、ここ最近のベネズエラの治安は益々悪化しており、恐らく今は外国人がまともに外を歩くのも難しいほど物騒で、近所の人々のふれあいも薄くなりつつあるようです。とはいえ原書の出版年であった1981年は、きっとまだこうした住民同士の触れ合いが強く残っていたのではないかと思います。
このお話は、日本からは遠い 南米ベネズエラでの一出来事ではありません。日本でも、今や子どもたちがのびのびと遊べる環境が失われてしまっています。それについて述べてある訳者の方の言葉はとても重く、実際にこの絵本に出会い、プレイパークの取り組みに出会い、今もその活動を続けていらっしゃるとのこと。この絵本を日本に紹介する、まさに適任者だと思います。
ちょうど先日、知人を介したランチ会で、この絵本の共訳者のおひとりである岡野恭介さんとお会いしました。絵本の出版が実現するまでの強い思いと行動力、それはもう脱帽です。すばらしい絵本をすばらしい訳者が訳されたのだなあと、実際にお話をお聞きして、とてもうれしくなりました。
また、この絵本を読んだ福島の図書館員の方が、福島の子どもたちと重なるとおっしゃっていたという話を、知人から聞きました。「遊び場がほしい」という子どもたちの切なる願い、そしてこの熱意に心動かされた大人たちが、自分たちにできることを見つけて動きだしたところに強い共感を抱き、大人として、図書館員として、できることをやっていきたいと強く思ったのだそうです。
図書館そして図書館員さんは、子どもたちにとっての居場所であり、彼らを陰から支える大切な存在。この絵本でも、図書館員さんが、遊び場がほしい!という子どもたちのキーマンになっています。
繰り返しになりますが、この作品は南米の遠い国の一出来事ではなく、日本でも、特に福島では、とても切実な問題でもあるのです。
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