ころりん ころらど

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~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

ガウディとお散歩

2021年9月13日

  • 原題
    Un paseo con el señor gaudí
  • 作者
    ポー・エストラーダ (Pau Estrada)
  • 発行年
    2013年
  • 出版社
    フベントゥー社 (Editorial Juventud)

本書について

バルセロナ出身の絵本作家が、モノづくり精神に打ちこんだガウディの天才の一日を綴り、2年をかけて詳細で緻密な絵で描いた作品。

概要

モノづくり精神に打ちこんだスペインの建築家ガウディ。この絵本は、1912年頃、ガウディがグエル公園にある家から仕事へでかけ、夕方、グエル伯爵と会いに戻ってくるまでの一日を描いています。名声とはうらはらなガウディの地味な風貌、突き抜けたセンスゆえに人々に理解されない彼の悩みやこだわり等がうかがわれます。また、20世紀初頭のバルセロナの街並み、この時代ならではの路面電車や車、さらにガウディの象徴的とも言える建築物が見事に再現されています。巻末にはガウディの生涯、さらに写真によるサグラダ•ファミリア聖堂、カサ•ミラ、カサ•バトリョなどの作品も紹介されています。

あらすじ

ガウディは、とてもかわったところにすんでいます。そこはバルセロナにあるグエル伯爵のためにつくったグエル公園です。まいあさ、ガウディはじぶんが手がけている作品の進みぐあいを見に、仕事場をめぐります。集合住宅のカサ•ミラ、サグラダ•ファミリア教会、バティーリョ邸…。ガウディは外見からはとてもそのように見えませんでしたが、当時、有名な建築家でした。彼の建築作品はあまりにつきぬけたセンスだったゆえに、時に人びとに理解されにくいものであったとしても…。

 作者について

文:ポー・エストラーダ (Pau Estrada)

スペインのバルセロナ生まれ。バルセロナ大学で文学を専攻。その後、フルブライト奨学金を得て、アメリカのロード・アイランド・スクール・オブ・デザインで美術を学ぶ。絵本の挿絵を担当する他、アメリカやスペインの出版社と様々な仕事を手掛けている。『ピカソとミヌー』は、NYイラストレーター協会の選定図書に選ばれた。彼はこの絵本をつくるにあたり、2年をかけて絵を描いた。現在はバルセロナに在住。邦訳作品に『変わり者 ピッポ(光村教育図書)』(挿絵担当)がある。

 

ポー・エストラーダ (Pau Estrada)他の作品(未邦訳)

1999年 『Little Red Riding Hood(Chronicle Books)』
2004年 『Princess and the Pea (Chronicle Books)』
2007年  『Pedro’s Burro (Harpercollins Childrens Books)』
2008 年 『Picasso and Minou (Charlesbridge) 』
2009年 『Pippo the Fool(Watertown, MA)』
2010年 『Picasso y Minou(Editorial Juventud)』スペイン語版
2010年 『Pippo el Loco(Editorial Juventud)』スペイン語版

 

邦訳作品

2010年 『変わり者 ピッポ(光村教育図書)』(イラスト担当)

書評

児童文学批評ブログ『紙の切れはしPizca de Papel』

2013年6月3日掲載記事の要約

バルセロナ生まれの画家ポーエストラーダにとって、ガウディの作品であるグエル公園は、自分の庭のようなものであったに違いない。ガウディは、彼のパトロンであり生涯の友ともなるバルセロナを代表する資本家グエル伯爵と出会った。もともとグエル公園は、グエル伯爵がオーナーとなった集合住宅としてガウディが手がけたのだが、ガウディの突き抜けたセンスは人々の理解を超え入居者が入らず、最終的に公共の公園になったのだ。

ページをめくっていくと、建築作品に没頭し、名声や物欲には全く興味を示さなかった天才の一日を知ることができるだろう。さらにグエル公園だけでなく、カサ•ミラやサグラダ•ファミリア聖堂など、ガウディの代表作も見事に描かれている。さらに、ガウディの人生観、ストイックな生き方、設計図を使わずに石膏を使い立体で説明するという独自の作品制作の進め方等も伝えられている。

青を基調として描かれた絵は、まさにスペインの海と空の青だ。また、当時のバルセロナの町並みや人々の様子などが、実に見事に描かれている。この絵本は、ポー・エストラーダの実に優れた作品だ。

感想

ガウディ没後100年にあたる2026年までに、サグラダ・ファミリアがついに完成すると言われています。また、2013-2014年は、日本スペイン交流400周年にあたることから 「特別展 ガウディ×井上雄彦 ‐シンクロする創造の源泉‐」が日本各地で開催されています。今後も、このようにガウディのイベントや出版物は益々増えていくでしょう。この絵本は、特に絵が素晴らしく、ガウディ建築の美しさと、彼の生き方や精神が伝えられた作品です。

おはなしのいちぶ

毎日、ガウディは朝いちばんに家をでて、仕事場へむかいます。ひえこんだ朝、ガウディはぼうしを耳のあたりまですっぽりかぶり、「ブルルッ」とつぶやきながら みぶるいします。手に息をふーっとふきかけ、よくあたためてから、うわぎのボタンをはめて歩きだします。

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朝になると、町はおおぜいの人たちでにぎわっています。荷車引きのどなり声とともに、馬車がつぎつぎと通っていきます。人でいっぱいの路面電車はきしむ音をたて、自転車はものすごいスピードで、つばめのように道をすりぬけていきます。けれど、ガウディは考えごとにむちゅうで、まわりを気にとめるようすもありません。ぼんやりしすぎて、うっかりだれかとしょうとつしたり、右も左も見ずに道をわたることもありました。

「あぶない!よくみろ!どこあるいてんだ。」自転車から、どなり声があがります。

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日がくれてきました。ガウディは帰りぎわに、いちばん弟子のホセ・マリア・ジュジョールと話しをしました。ジュジョールは、ずっと前から気にかけていたことを、ガウディに聞いてみることにしました。
「先生、サグラダ•ファミリアの建設はうまく進んでいます。まもなく、はじめに取りかかった塔は完成するでしょう。しかし、この作品が完成するには、長い年月が必要だと思われませんか?このままでは、われわれが生きている間に完成するのは むりなのではないでしょうか?」
「ジュジョールくん、わたしはだれのためにはたらいているのかを、よく心えておる。この仕事の依頼主は、完成をいそいではいないのだ。古くからある教会は、どのようにつくられたと思うかい?サグラダ・ファミリア教会の建設は、何世代もつづいていく。一人ひとりがよい仕事をして かがやいてほしい。われわれは、ただ、はじめたにすぎないのだ。そうして、いつか、だれかがおわらせるだろう。たしかなのは、いつの日かサグラダ・ファミリアは完成し、それを見てよろこぶ人がいるということだ。これだけは、いっておこう。サグラダ・ファミリア教会は、バルセロナのほこりなのだ」

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