ママの世界
2021年9月13日
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原題Un mundo de mamá
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文マルタ・ゴメス・マタ(Marta Gómez Mata)
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絵カルラ・ナザレ(CARLA NAZARETH)
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発行年2009年
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出版社Comanegra (コマネグラ社)
ここ数年、大人たちの間で絵本ブームが広がっています。子どもを持つ親だけでなく、絵本の魅力に気づかされる大人が増えているのです。1000冊以上の絵本が並ぶ原宿の「カフェ・シーモア・グラス」のような絵本喫茶も人気です。書店の大人向け絵本コーナーも増えてきました。
ただ、読み応えのある絵本となると、なかなか見つかりません。そんな時、この絵本『ママの世界』と出会いました。ママのすべてがぎっしりとつまっている、まるでママ図鑑を読んだような充実感!共感の笑いをさそう、たっぷりと読み応えのある絵本です。日々、現在進行形で奮闘中のママへの賛歌であり、ビタミン剤のように栄養補給をしてくれる、元気のでる絵本なのです。
我が家のママに置きかえて、子どもといっしょに楽しめるかもしれません。子どもは新たな一面や知られざるママの姿を発見し、母親は自分の姿をなるほどと客観的に見ながら癒されたり、励まされたりするでしょう。母であるすべてが詰め込まれた美しい絵本です。
作者について
文:マルタ・ゴメス・マタ Marta Gómez Mata
1967年、スペインのバリャドリッドに生まれる。バリャドリッド大学でスペイン文学を学んだ後、バリャドリッド、メリーリャ、スコットランド等の大学で外国人向けにスペイン語教師として働く。1999年からスペインのマドリッド、バルセロナ、アメリカのニューヨークで編集者として働き、児童向け書籍に多く携わり、1994年から執筆活動を開始。現在はバルセロナに在住。大手出版社の編集者として働きながら執筆活動を続ける。
絵:カルラ・ナザレ CARLA NAZARETH
ポルトガル人若手イラストレーター。1975年、アフリカのモザンビークに生まれ、幼少期をポルトガルのコインブラやリスボンで過ごす。リスボンの大学でデザインやコミュニケーションを専攻した後、1998年からデザイナーとして働き、2001年以降、児童向けのイラストを手掛けるようになった。2007年、Nósna Linha社を設立。以後、彼女の作品の数々はスペイン、アメリカ、中南米諸国でも紹介され、スペイン語の他にカタラン語、ガリシア語にも翻訳されている。
あらすじ
25人の架空のママを見開きページごとに紹介するママ・コレクションの絵本。主役である25人の母親像には、母親のすべてが盛り込まれていて、様々な顔をもつ現代の母親が紹介されています。美しい絵にメタファーの表現を多用した詩的な文章がつづられ、それぞれのママの個性や趣味がユーモアたっぷりに反映されています。自分の母親はこの世に一人しか存在しません。しかし、イマジネーションの世界では、おどろくべき多くのアイデンティティを備えており、現代の母親像を見事に表現しています。読み応えのある、とても美しく楽しい絵本です。(対象年齢9歳から)
目次
ママ1. 外の世界を走りまわる自転車ママ
ママ2. しあわせそうにいつも顔を赤らめるいちごママ
ママ3. 美しく優雅な音を奏でるアコーデオンママ
ママ4. 神秘的なドラゴンママ
ママ5. ねむりをこよなく愛するねむりひめママ
ママ6. 絵を描くことのよき理解者ピカソママ
ママ7. 長い足で空を飛ぶように走るガゼルママ
ママ8. 見習水夫を教育する海ぞくママ
ママ9. 暖炉のようにぽかぽかのチムニーママ
ママ10. 優雅にやさしく、時間にきっかりの電車ママ
ママ11. 抱きしめて元気をくれるチョコレートママ
休憩 ママのバッグの中は…
ママ12. 音感に優れたモーツアルトママ
ママ13. 海の世界をこよなく愛するマーメイドママ
ママ14. 読書が大好きな赤ずきんママ
ママ15. 絵筆で色をあやつるモネママ
ママ16. 7色の声を使いわけるねこママ
ママ17. 猛スピードで、どこでも時間どおりのレーシング・カーママ
ママ18. 日々を切りとるシザーズママ
ママ19. 船をあやつり大海原を旅するセーリングママ
休憩 ママ・シアター
ママ20. お菓子好きなチューインガムママ
ママ21. 魔法をあやつる妖精ママ
ママ22. はじけるようなパワーの持ち主コカコーラママ
ママ23. 毎日が不思議でいっぱい魔法使いママ
ママ24. 癒しの曲を奏でるピアノママ
ママ25. ハッピーエンドを夢みるプリンセスママ
おはなしの一部
プロローグ
マーメイドママが、海の楽園で魚のうろこが国のお金になる夢を見るとき、チムニーママはパチパチともえる一日をゆっくりと終え、魔法使いママはシルクハットをしまいハトにえさをやる。そのあと、海ぞくママがミントシロップをみどり色の瓶いっぱいにつめてジャマイカについての本をひらくと、ねこママはフランスの極上チーズ・フレーバーの枕をさがし、ピカソママは書斎の明かりをつけ、今日、地下鉄の電車にゆられながら仕上げたデッサンに色つけをする。
そのころ、ねむりひめママは鏡の前でひらひらのネグリジェとお気に入りの雑誌をえらび、ころがるようにしてベッドにたおれこむ。パパと子どもたちはとっくにおやすみ中。いちごママはその時間を利用して『レッド アンド ローズ』の本をよみ、チューインガムママはハンモックに寝そべり天井から見える灯りの美しさをながめ、ガゼルママはひじかけ椅子でうとうとしながら、たえず聞こえてくる真夜中の神秘の音に耳をかたむける。
…………
- 自転車ママ
おどろいた!ガゼルのようにものすごいスピードとライオン並みの力でペダルをこげるなんて!つかれた時はカメのようにのろのろとすすみ、大きなクマのようにゆったりとハンドルをかまえながら、目にうつるショーウインドーやカフェテラス、そして信号を横目にゆっくりと走る。自転車のお出かけは、まったくペースが読めない。顔に風を感じながら走るのがこんなに楽しいなんて!バランスをとりながら走っていると、そよ風がゆっくりとからまってくる。なんて気持ちがいいんでしょう!
自転車ママは、ここちよい銀色のかがやき。腕の中はふわふわしたハンドルのよう、顔をうずめてひとねむりできる。足をまっすぐにのばしてママによりかかれば装着完了!どんなところにだって連れていってくれる。だって、自転車ママがこの世でいちばん好きなのは、坂道を上ったり下りたり、通りをよこぎりながら走りまわることだから。風車のように車輪をまわし、ごきげんな時はなめらかにターン、つかれたときは坂のいちばん上までのぼってひと休み。
自転車ママの子は、ほんとうにしあわせ。いつだって一緒に外の世界に飛びだせるから。家に帰るのは、くたくたにつかれたとき、チェーンがきしみはじめたとき、タイヤの空気がなくなったとき、それから修理にださなきゃならなくなったときだけ。
そのときまで、自転車ママとの生活はいつだってフル活動、そして一瞬のほほえみ。