ママのうたで ふわふわりん
2021年9月13日
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原題Floating on Mama’s Song /Flotando en la canción de mamá
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文ラウラ・ラカマラ(Laura Lacámara)
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絵ユーイ・モラレス(Yuyi Morales)
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発行年2010年
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出版社ハーパーコリンズ児童書部門(HarperCollins Children’s Books)
インプリント:キャサリン・テーヘン・ブックス(Katherine Tegen Books)
あらすじ
アニータが7歳の誕生日に学校から家にもどると、ママがオペラの歌をうたいながら、宙にふわふわとういていたのです!庭には、愛犬のティトまでもふわふわりん。「歌うたびに、体がういてしまうの!歌をうたうのが、ただ楽しくて!」アニータのママは、おどろきながら言いました。そしてアニータも、ママの歌をきいたとたん、ふわふわと体がうきはじめます。ふたりは、この不思議なできごとが楽しくてしかたがありません。
ところがアニータのおばあちゃんは、いい顔をしませんでした。口うるさい近所の人たちも、自分たちの家のブタやヤギやウシが、アニータの家の近くでふわふわと浮いているのを見つけ、文句を言いにアニータの家にやってきました。アニータのおばあちゃんはママに歌をやめさせますが、ママは歌をうたわなくなってからすっかり元気をなくし、笑わなくなってしまいます。すると、近所の牛はミルクが出なくなり、豚はえさを食べなくなり、ヤギは眠らなくなってしまいました。
みんなが悲しみに暮れる中、ある日アニータは、おばあちゃんの部屋で一枚の昔の写真を見つけます。それは、マンゴーの木の上にひっかかった一頭の牛の写真でした。おばあちゃんは写真を見ながら、アニータとママに本当のことを話しはじめます。実はアニータの家系の女性はみんな、代々歌をうたってきたのです。彼女たちには、歌を通じて聞くものをみんな宙にうかせてしまうという特別な才能が備わっていました。ただし最初に産んだ娘が7歳にならないと、その力は発揮されないのです。
おばあちゃんは、自分の歌がひきおこした事件が近所の人に知れるのを恐れて、歌をうたうことをやめてしまいました。「歌をやめてから、私の心は苦いグレープフルーツのようだわ」おばあちゃんは、正直に自分の気持ちを打ち明けてくれました。アニータは、もう一度おばあちゃんに楽しんでもらいたくて、おばあちゃんの前で歌をうたいはじめます。アニータのへんてこな歌に、おばあちゃんも思わずにっこり。はじめは鼻歌で、しばらくするとしゃがれ声で、ついに、おばあちゃんは歌をうたいはじめます。そのやさしい歌声とともに、アニータとおばあちゃんはふわふわと空中にうかんでいきました。すると、ふたりを見ていたママも、ついに笑顔をとりもどします。ママの声は滝のようにいきおいよく流れだし、美しい歌声になりました。高い声がひびきわたると、ママもおばあちゃんもマンゴの木のてっぺんにとどきそうなほど、ふわふわと浮いていきました。
それから、ママは毎日歌をうたっています。ママが歌をうたうと、家族はみんな最高に幸せな気分。ママの歌でふわふわりん!
(対象年齢:4~8歳)
書評
Publishers Weekly-Starred review:
ラカマラのデビュー作は、ちょっとかわった家族の物語です。お話のナレーターであるアニータが、7歳の誕生日をむかえた日のことでした。音楽を愛する気持ちが、アニータの家族に不思議な魔法をひきおこしたのです。アニータが家に帰ってくると、ママが歌をうたっていました。それは、ふだんと変わらない光景。そう…ママが歌をうたっているあいだ、ママと愛犬のティトが空中に浮いていることをのぞいては…。このふしぎなできごとに、アニータとママは大よろこび。でも、アニータのおばあちゃんと近所の人たちはいい顔をしません。とうとうアニータのママは、二度と歌をうたわないように約束させられてしまいます。でも、歌をうたえないことがあまりに悲しかったので、アニータのママは心をいため、笑顔が消えてしまいます。なんとかママに元気を取りもどしてほしいと願うアニータは、いろいろ手をつくし、ついにある秘密を知ることに…。モラレスの光沢感のあるアクリル画には、茶目っけたっぷりな魅力があふれ、家族の温かな絆と音楽がもたらす喜びがあらわれています。
Booklist:
英語とスペイン語のバイリンガル絵本『ママのうたでふわふわりん』の中で、モラレスが描くふっくらとした容姿の人物たちは、見た目の重さとはうらはらに、みんなふわふわと宙に浮いてしまいます。淡い金色をハイライトにした鮮やかな色彩が、丸みのある丘や木の枝などにとけこみ、見事な調和を見せながら話が進むにつれ、魔術的レアリズムを完成させているのです。
―以下、あらすじのため省略―
Library Journal:
―前半はあらすじのため、省略―
故郷であるキューバのルーツと、幼少期に聞いた母親のオペラの歌からインスピレーションを得たラカマラのデビュー作は、カリビアン・テイストが盛り込まれた作品になっています。モラレスの明るく元気な色彩のコラージュ画は、ふっくらとした温かみのある人物たちと、実際の写真やデジタル加工した観葉植物などが見事にとけあった仕上がりになっており、子どもの想像力をかりたてる作品になっています。
感想
ラテンアメリカは様々な人種が混ざっている国々です。それゆえに、文学界において豊かな感性の本が多く出版されています。上記の書評にもあるように、『魔術的リアリズムMagischer Realismus』といった非日常と日常が融合している作品は中南米の作家が描く魅力の一つですが、この絵本もまた、その中の一冊だと思います。キューバ出身の新人作家ラウラ・ラカマラの民話的テイストを盛り込んだテキストに、プーラ・ベルプレ賞の最多受賞者である画家ユーイ・モラレス(メキシコ出身)の絵の魅力が見事に調和しています。
この絵本は、キューバ出身の作家が、家族の絆や音楽のもたらす喜びといったラテンアメリカならではの魅力を民話テイストを盛り込みながら、それでいて誰もが共感できる話しになっているところが大きな魅力の一つです。
揚げバナナ、黒豆、ヤシの実、マンゴーの木…。これらはどれもカリビアン諸国の香りを伝える上で欠かせないものばかりです。そして音楽―。ラテンアメリカは音楽なしには語れないほど、街のあちこちで音楽が流れています。日常に音楽が寄りそい、音楽のもたらす喜びを誰よりもよく知っていて、それをサルサやメレンゲといったダンス(今回はFloating)といった形で体を使って表現できる人々の暮らす国なのだと思います。
この作品を読んだ後、ふと、画家マルクシャガールの一枚の絵を思い出しました。それは、シャガールと奥さんのベラが街の上を漂い空を飛んでいる絵です。幸せの絶頂を表現しているそうですが、人は本当に幸せを感じる時、うれしくて空を飛ぶのかもしれませんね。
そして最後に、おばあちゃん、母親、娘アニータの親子3世代にわたる家族の強い絆も、また、この作品の大きな魅力です。子どもを愛する母親の無償の愛についてはもちろん、子どもまた、無償の愛で母親を守ろうとしているのだと気づかされます。相手を思いやる気持ちにあふれた愛情たっぷりの絵本です。
作者について
文:ラウラ・ラカマラ(Laura Lacámara)
キューバ生まれの作家兼イラストレーター。カルフォルニア州立大学で美術を専攻。仲間のアーティストの勧めで、アート・デザイン・オーティス・カレッジで子ども向けの絵本のイラスト講座を受講する。その中で生まれた作品が『Floating Mama’s Song』である。幼少期に聞いた母親のオペラからインスピレーションを得たラカマラのデビュー作は、カリビアン・テイストが盛り込まれた作品になっている。
本作品の受賞歴
2010年秋 Junior Library Guild Selection受賞作品
2011―2012年Tejas Star Book Award 最終候補作品
作品歴(いずれも未邦訳)
2010年 『Floating on Mama’s Song/Flotando en la canción de mamá』の著者
2010年『The Runaway Piggy/El cochinito fugitivo』イラスト担当
2012年出版予定『Alicia’s Aguas Frescas』イラスト担当
イラスト:ユーイ・モラレス(Yuyi Morales)
1968年メキシコ生まれ。作家、人形作家、ダンサーなど、マルチタレントなイラストレーター。25歳までメキシコで育つ。1995年にアメリカへ移住し、現在はカリフォルニアに在住。
受賞歴
2004年『Harvesting Hope: The Story of Cesar Chavez』プーラ・ベルプレ賞(画家部門)オナー作品
2004年『Just a Minute!』プーラ・ベルプレ賞(画家部門)受賞作品
2008年『Los Gatos Black on Halloween』プーラ・ベルプレ賞(画家部門)受賞作品
2009年『Just in Case』プーラ・ベルプレ賞(画家部門)受賞作品
2010年『My abuelita』プーラ・ベルプレ賞(画家部門)オナー作品
作品歴(いずれも未邦訳)
2003年『Harvesting Hope: The Story of Cesar Chavez』
2003年『Just a Minute!』
2004年『Sand Sister』
2006年『Los Gatos Black on Halloween』
2007年『Nochecita/ Little Night』
2008年『Just in Case』
2009年『My abuelita』
2010年『Floating on Mama’s Song/Flotando en la canción de mamá』
2011年『Ladder to the Moon』
2012年出版予定『Georgia in Hawaii: When Georgia O’keeffe Painted What She Pleased』
おはなしの一部
ママは、うたうのがだいすき。まいにち、こんなにたのしいのは、ママのうたのおかげ。
でも、わたしの7さいのたんじょうびから、なにもかもかわってしまった。
そのひ がっこうからかえると、あげバナナとくろまめのおいしそうなにおいがただよってきた。ママが、おきにいりのオペラのうた「カルメン」をうたってる。いそいで だいどころへいってみたら、びっくりしてかたまっちゃった!
ママが くうちゅうにふわふわういてる!そとでは、いぬのティトも ふわふわりん!
ママがうたうのをやめたとたん、ドシンと ゆかに おとをたてておちた。
ドーン!ティトも おっこちた。
「ママもティトも、ふわふわ ういてたわ!」 わたしは、おもわず こえをあげた。
「そうなのアニータ。うたうたびに からだがういてしまうの!うたうのが、ただ たのしくて!
ティトも きにいったみたい」 ママは わたしをぎゅっとだきしめてくれた。わたしたちは、いっしょに わらった。
ママがうたうと、こんなにすてきなことがおこるなんて!おばあちゃんは、しってるのかな?おとうとのオーランドは?
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