ころりん ころらど

ころりん ころらど
~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

にひきのしろうさぎ

2021年9月13日

  • 原題
    Dos Conejos blancos
  • ハイロ・ブイトラゴ (Jairo Buitrago)
  • ラファエル・ジョクテング(Rafael Yockteng)
  • 発行年
    2016年
  • 出版社
    Ediciones Castillo社/メキシコの出版社
    2015年、Groundwood Books社より英語版が出版されている

あらすじ

少女は父親と一緒に知らない土地へ向かって旅に出ます。行先を分かる者はいません。少女は父親を信じ、父親は娘を守り、仕事を見つけお金を手にします。イラストが示すのは、国境へ向かう道のりの間に起きる障害の数々、空腹、強制退去、暴力・・・。けれど一方で思わぬ贈り物のうさぎに出会うのです。読者はストーリーのカギを解くために、絵を読む力を必要とされるでしょう。移民問題の現状の一端を語る作品。

書評 児童文学書評「カンテラと森」より要約

これほど文と絵の対話のある作品はないだろう。旅をする父親と娘。彼女は目にするものを数えていく。牛が5頭、雌鶏が4羽、鳥が50羽、男の子が1人、走る車や野良犬たち、線路沿いに暮らす人々、空にうかぶ雲、そして少女は兵士を除くすべてのものを数えていく。「どこへいくの?」 少女の問いにだれも答えられない。父親は警戒しながらじっと黙ったまま考えこんでいる。父親は何も言わない。けれど絵は語っている。

本書 『2ひきのしろうさぎ』は、少女の一人称で語られていく。しかし実際に話の展開を語るのは少女ではなく絵だ。朝が始まり夜が来る。列車に乗り降りする人々。働く人、戯れてお喋りする人。そして一緒にいる父と娘。娘が少しでも離れれば、父親はすぐに呼びとめる。それほど警戒が必要な状況なのだ。

ジョクテングの絵は大げさな誇張はなく、ドラマ仕立てにもしない。結末に答えはない。こうした問題の行方は語るのは非常に難しいものだからだ。現在、移民統計によると、毎年4万人の子どもたちがメキシコや中南米からアメリカへ向かっているという。最後に、この話は悲劇のストーリーではない。少なくとも父と娘は一緒なのだから。

作者について

文:ハイロ・ブイトラゴ (Jairo Buitrago)

1973年コロンビア、ボゴタ生まれ。作家、編集者、映画研究者。コロンビア国立大学で文学を専攻。子供向けの作品を執筆する他、編集者としての経歴も持ち、また映画の脚本を手掛ける等、様々な分野で活躍の場を広めている。2007年、絵本『かえりみち』で、メキシコの出版社フォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ社主催の絵本コンクール「第11回風の岸辺賞(絵本部門)」を受賞。著書に『エル・セニョール・エル・ファンテ(2007)』、『エミリアーノ(2008)』、『エロイーサと虫たち(さえら書房2009)』等がある。

 

絵:ラファエル・ジョックテング (Rafael Yockteng)

1976年、ペルーのリマ生まれ。1980年、4歳の時に家族でコロンビアに移住。ホルヘ・タデオ・ロサーノ大学でグラフィック・デザインを学ぶ。2000年度IBBY主催ラテンアメリカの児童書を手掛けるイラスレーターを対象にしたコンテスト「ユートピア賞」を受賞。以来、コロンビアを中心に海外でも作品を提供。代表作に『空から下がる木(2003年)』、『白い花 ―マヤのおひめさま(2005年)』、『まめスープ(2009年)』、『エロイーサと虫たち(さえら書房2009)』等がある。2007年にハイロ・ブイトライゴと手掛けた絵本、『かえりみち』で、メキシコの出版社フォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ社主催の絵本コンクール「第11回風の岸辺賞(絵本部門)」を受賞。

裏表紙より(一部翻訳)

この本で、父親と娘は住みなれた土地と家を離れ、ほかの国へ向かいます。もしかしたら父親は故郷にはもう仕事がなく、娘を養っていけなくなったのかもしれません。もしかしたら彼らの住んでいたところが暴力や戦争などで危険な状況に追いやられてしまったのかもしれません。私たちには分かりません。ただ分かっているのは、毎年、何百万人もの人々が国を追われているということです。(以後、省略)

おはなしのいちぶ

パパと旅するとき、わたしは

目にみえるものを かぞえる。

牛が 5とう、にわとりが 4わ

もう1ぴきは、しらないどうぶつ。

つかれたときは、空をみあげて

くもを かぞえるの。もう、100までかぞえられるようになった。

 

パパと旅するとき、もちろん わたしは ねむる。

すすんでる ゆめはみるけど、とまるゆめは みない。

だって、とまってしまったら、わたしたちは つれていかれちゃうから。

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