ころりん ころらど

ころりん ころらど
~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

はらぺこライオン エルネスト

2021年9月9日

  • 原題
    ERNESTO
  • ローラ・カサス(Lola Casas)
  • グスティ(Gusti)
  • 発行年
    2016年
  • 出版社
    ワールドライブラリー
  • その他
    2008年 コロンビア「フンダレクトゥーラ(読書教育推進非営利組織、IBBYコロンビアの代表)」の優良図書100選の推薦図書
    2006-2007年 ヘルマン・サンチェス・ルイペレス財団(スペイン唯一の児童書センター)選定図書
    2007年 スペインのルーゴ公立図書館の推薦図書(2010年国連制定「文化の和解のための国際年」に向けて)。
    その他、同国シビカン公立図書館、フラガ私立図書館等の推薦図書
    原書:RBA Serres社、スペインの出版社、2007年

絵本『エルスト』を、ワールドライブラリーさんから刊行しました。

あらすじ

アフリカのサバンナにくらす百獣の王、ライオンのエルネストは、無性にお腹が空いて目を覚ましました。

さっそく獲物を探して狩りに出かけます。さて、どれにしようか、しなさだめ。

ガゼル、レイヨウ、キリン、ダチョウ、どれもいまいち…。

そうだ!シマウマにしよう!さっそく、丸々とふとったシマウマをはっけん、

ねらいを定め おそいかかろうとしたその瞬間、遠くから聞き覚えのある声が…。

「エルネストォォォォォォー!エルネストォォォォォォー!!」

子どもから大人までおもいっきり楽しめる、ユーモアたっぷりの絵本。

感想

この作品は何よりイラストが魅力的で、表情豊かな動物たちを見ていると、こちらまで楽しくなり、いつまでも飽きさせない作りになっています。

意外と子どもの世界では、ライオンのメスが狩りをするのは、あまり知られていないようです。よくよく調べてみると、確かにキリンの口臭は他の動物と比べると強く、バッファローの肉は赤身で固く、ガゼルはライオンの大好物だけれど、足が速くなかなかつかまえられないそう…。

そういう意味では、リアルな動物世界をユーモアたっぷりに描いているのかもしれません。

我が家の子どもたちは、このお話が大好きでした。特にエルネストがシマウマを襲う瞬間、「エルネストォォォォー!」と声をあげて近づいてくる声の主の表情がたまラなく面白いらしく、なんどもくりかえし読まされました。何度読んでも飽きない面白さ! たのしい絵本です。

作者について

文: ローラ・カサス(Lola Casas)

1951年、スペインのバルセロナ生まれ。公立小学校の教師として40年以上の経歴を持つほか、文学や映画に関する講座や講演会の講師、教育関連雑誌の記事執筆、読書活動の推進や教育セミナーのアドバイザーなど、幅広く活躍している。児童文学作家としてこれまで手掛けた作品は30タイトル以上に及ぶ。エッセイ、短編小説、児童書の執筆のほか、近年は子ども向けの詩の創作に情熱を注いでいる。

絵: グスティ(Gusti)

1963年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。スペイン及びラテンアメリカ諸国の第一線で活躍するイラストレーター兼絵本作家。彼の作品は20カ国以上の国で出版され、BIB金のりんご賞、スペイン国民イラスト賞、ミュンヘン国際児童図書館の優良図書推薦リストやIBBY障害児図書資料センター推薦図書リストに選出されるなど国際評価も高い。また、南米アマゾンの先住民と生活を共にしたり、オウギワシの生態調査や、絶滅危惧種であるスペインオオヤマネコの保護プロジェクトに関わる等、さまざまな活動にも参加している。バルセロナ在住。

グスティの邦訳作品:

『なかよくなんかならないよ』文出版局2000年4月

文:リカルド・アルカンターラ、絵:グスティ

こいぬのテントシリーズ(文:リカルド・アルカンターラ、絵:グスティ)

『テントとおともだち』ポプラ社 2002年2月

『テントのちいさなはな』ポプラ社 2002年2月

『テントはあかちゃんじゃないよ』ポプラ社 2002年5月

『テントとまねっこおばけ』ポプラ社 2002年5月

『テントがとってもこわいもの』ポプラ社 2002年6月

『テントのガールフレンド』ポプラ社 2002年6月

『ハエくん』(作、絵:グスティ)フレーベル館 2007年

書評

スペインの児童文学紹介専門サイト 「ソル(SOL)」 

ステレオタイプの家族像を打ち破る、ユーモアたっぷりな遊び心のある作品。予期せぬ結末に、読者は驚かずにはいられないだろう。夫婦間で主導権を握っているのは実は雌ライオンで、夫に正しい振る舞いをするように説き伏せるのである。水彩画とコラージュが見事に調和し、クリエイティブに富んだ作品に仕上がっている。

ブログ書評 「コップの中の嵐 ― 日々の良書」 

木の紙に描かれたイラストにはコラージュが施され、中心人物以外のモノたちもきめ細かく描かれていて読者を飽きさせない(ピーナッツの殻を使った小鳥、ジュースの瓶のふたが用いられた猿の目、ネジを使った昆虫等)。小さな虫たちが、獰猛なライオンの動きを興味深そうに、じっと見守っている。そして、緊張感が最後まで続いていく。ライオンはシマウマを食べてしまうのか?それとも、シマウマが走って逃げだすのか?はぎれのよい簡潔な文章がページを追うごとにサスペンスのような盛り上がりを見せてくれる。そして、予期せぬアンチヒーローの結末へと、私たちを導いてくれるのだ。動物の世界が読者の日常のひとコマと重なる。文脈を偽らず、教訓を強いることなく…。子どもの世界に退屈は存在しない。大人の世界も、またそうであるべきなのだ。だれもが思いっきり楽しめる絵本、『エルネスト』はそんな作品だ。

本の成り立ちについて 

ブログ書評 「コップの中の嵐 ― 日々の良書」同ページより

(グスティのインタビュー記事)

― 子どもの本のイラストを描くことは、あなたにとって大きな満足感を与えるものなのでしょうか?

A ― 子どもの本をつくるのは、とても神聖なことなんだ。ただ、手掛けるにあたっては、スピリチュアルな面がとても大切だと思う。

― その関心が顕著に表われている作品は、やはりアマゾンを実際に旅して、そこで密林のシャーマンと出会い、動物の世界に触れたことが大きく影響しているのでしょうか?『エルネスト』が良い例だと思うのですが…。

A ― その通り!虫にだって精霊はいるんだ。そして、各々語るにふさわしい何かを備えているんだと思う。ただ、人間は進化の過程で、それが後退してしまった。『エルネスト』は、ネコ科の動物、特にイベリアヤマネコ のために描いた作品なんだ。この種は今、絶滅の危機に瀕している。地球に暮らす動物が消えていくたびに、ぼくたちの一部である“かけら”もまた、一緒になくなりつつある。

― 今まで、自らの作品が高い評価を受け多くの賞を受賞されていますが、子どもの本を描くことを、これからも続けていかれるのですか?また、それに対して責任のようなものを感じていますか?

A ― ぼくにとって、一番興味があるのは楽しむことなんだ。賞を受賞したり、夕食に誘ってもらえるのも、もちろん光栄なことだけれど。やはり、一番ぼくを動かす原動力となっているのは子どもの力だね。ぼく自身も大きな子どものようなもので、今は息子のテオからたくさんのことを教えてもらっている。賞のために選ばれるなら、もちろん良い本を作るべきだろう。でも何より一番なのは、7~8歳の子どもが好きな絵を上手く取り入れることだね。

(ローラ・カサスのインタビュー記事)

「子ども向けに文章を書くことが大好きなの」 。たくさんの本を抱えながら、彼女は言った 「これが私のやりたいこと、楽しみ」。

― グスティも同じ考えのようですが、『エルネスト』は、どのようにして生まれたのですか?

A ― 理解してくれる人と一緒に仕事をするのは、とても大切なことね。ネットワークを通じて仕事をする必要があるけれど、特に人とのつながりの中で、興味あることを共有しながら働くと良い結果に結び付くことが多いわね。グスティと私は、ずっと前から一緒に仕事がしたいと話していたのだけれど、ついに『エルネスト』でそれが実現したのよ。

― もちろん、子ども世界特有の知識は必要だと思うのですが、作品の中に教師としての面がどのように影響しているのでしょうか?

A ― 私はいろいろな年齢の子どもたちを教えてきたけれど、彼らとの日々の会話が何よりも彼らの好みや関心を知る手助けとなっているわ。でも、いつも教育的な作品を書くことは避けているの。何かを教えようという熱意は、書いているものに水をさしてしまうから、好きではないわね。私は教師だけれども、子どもたちが学んでいることについて、その意見を代表しているのよ。もし教師がいなかったら、それでも彼らは学んでいるでしょうね。時に、その方が良い場合だってあるわ!

― でも、エルネストはメッセージ性のある絵本ですよね。

A ― たしかにそうね。でも、うわべだけの道徳心のようなものは避けたつもりよ。子どもたちは教育的なものからは逃げようとする。もし、理念を伝えたいなら、ユーモアたっぷりに伝えなくてはいけない。いかなるコンセプトがあろうと、説教になってはダメ!メッセージは自ずと伝わるのだから…。実は、何人かの女性が話してくれたのだけれど、『エルネスト』を夫に読ませたんですって!その一方で、1歳半の子どもの読者もいるのよ!

― 子どもを教化するに当たり、何か傾向はあると思いますか?

A ― 綿のようにふわふわしたもので子どもたちを包んで教育する傾向があるように思うわ。それは文章の世界にも同じことが言えるわね。でも、世の中は綿菓子のように甘くはないし、そうした子どもになってはいけないと思う。反対に石のようにカチカチなのもだめね。大切なのは、子どもたちが生きる価値を身につけること。もし、私たちの本がそれに少しだけ貢献しているとしたら、パーフェクトね!

おはなしのいちぶ

ひがくれて、すずしくなってきた。

とつぜん、アフリカのそうげんに ひびく ちからづよい ほえごえ。

ナイフのような きばと、

かぜをさくような するどいつめ。

いちばん つよくて おそろしい、

めをさましたのは…。

どうぶつのおうさま、

らいおんのエルネストだ。

エルネストの おなかは からっぽ。

おなかがすいて、ぺっこぺこ!

さっそく、エルネストは

ごちそうをもとめて、かりに でかけることにした。

・・・・

ちょうど そのとき、けたたましい かなきりごえが、サバンナの そうげんいっぱいに ひろがった。

「エルネストォォォォォォォー!エルネストォォォォォォォー!!

どこいってたのよ!」

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