ころりん ころらど

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~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

まぼろしのおはなし

2021年9月8日

  • 原題
    el cuento fantasma
  • ハイメ・ガンボア( Jaime Gamboa )
  • ウェン・シュウ チェン(Wen Hsu Chen)
  • 発行年
    2014年
  • 出版社
    ワールドライブラリー
  • その他
    コスタリカの作者による、グアテマラの出版社からの刊行絵本
    本書の受賞
    2013年 ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB 2013) 出版社奨励賞受賞作
    ※ 絵は、野間国際絵本原画コンクール・グランプリ受賞者ウェン・シュウ チェン(Wen Hsu Chen)による作品
    原書:グルーポ・アマヌエンセ(Grupo Amanuense)グアテマラの出版社、2012年

2015年、ワールドライブラリーさんから刊行しました。

あらすじ

まぼろしのおはなしは、図書館のかたすみに ひっそりと かくれていました。ゆうめいなおはなしたちが かがやくところから、とおく とおく はなれたところに…。 ずっと、じぶんは だれからもみえない まぼろしのおはなしだと しんじていました。じぶんは からっぽなんだって おもっていたのです。たしかに、このおはなしには、インクの文字も、いろあざやかな絵もありません。図書館には いつも たくさんの人が本をよみにやってきます。けれど、このおはなしを よもうとするひとは だれもいなかったのです。ところがある日のこと、ちがう本のさがしかたをする女の子が あらわれました。

女の子は、いいました。「これまで、あなたは だれにも よまれたことが ないのね?でもね、あなたは、だれもがよめるように つくられたものではないの。あなたの すばらしい おはなしは、目でよむものではないのよ。」女の子は ゆびのはらでさわりながら、そこにかかれている すばらしいおはなしを よみはじめました。このおはなしは、てんじという、手でよむ文字で かかれていたのです。

まぼろしのおはなしは、しあわせなきもちで いっぱいになりました。こんなすばらしいおはなしは、ほかにはない。ただ、ちょっと ちがうだけ。色とりどりの 鳥のはねのように。さまざまな人のかおのように。おおきなイチジクの木の、かぞえきれない 木の葉のように…。

作者について

文: ハイメ・ガンボア・ゴールデンバーグ(Jaime Gamboa Goldenberg

作家、ミュージシャン。中米で人気のミュージシャンバンド「マルパイス」のメンバーとして知られ、今までに30曲以上の歌の歌詞を提供している。文学の世界では、作家として執筆活動を展開し、大人向けだけでなく子ども向けの本も手掛けている。アマヌエンセ社からは、『ひろがるわらい(La risa contagiosa)』と、本書『まぼろしのおはなし(El cuento fantasma)』が出版されている。また2013年には、アマヌエンセが主催した第1回中米児童文学コンク-ルで、彼の作品『マリンバのこころ(Corazon de Marimba)』が受賞した。

絵:ウェン・シュウ チェン(Wen Hsu Chen

コスタリカ大学で建築学の修士号を取得後、米国ロードアイランド・スクール・オブ・デザインでイラストレーションの美術学士号を取得。現在はコスタリカや米国などで、パッケージデザインや本の挿絵などを手がける。水彩とカッティングペーパーを融合させた技巧で、非常に高い評価を得ており、野間コンクールでグランプリを受賞した。アマヌエンセ社からは『まぼろしのおはなし(El cuento fantasma)』と『木のおはなし(Historia de árbol)』が出版されている。

感想

わたしが今まで読んできたラテンアメリカの絵本で、これほど繊細な絵本に出会ったことはありません。この絵本は、目の見えない世界がどのようなものか、目の見える人に知ってもらうためのおはなしです。ぜいたくなほど まっしろな単色のページに、ていねいな 切り絵がほどこされているのですが、それは色のない世界観を表現しているのかもしれません。そうした中で、イマジネーションあふれる おはなしの精たちだけが、7色の光を放っています。彼らの存在は目には見えないけれど、そこに たしかに存在しているのです。そして、女の子は目が見えないけれど、まぼろしのおはなしを読むことができるのです。

女の子が ゆびでさわってよんだ すばらしい物語とは、いったいどんなおはなしだったのでしょう?あえて、そのおはなしについて ふれていませんが、そんなおさえめな感じもすばらしい。ここ数年、優れたラテンアメリカの絵本がたくさん出版されています。日本で紹介されているラテンアメリカの絵本は、これまで昔話や社会派の絵本が主流だったように思います。けれど、そうではない こうした絵本もあるんですね。2014年、今年も そんな素敵な絵本を紹介していければなと思っています。

ちなみに当初、この絵本は点字つき絵本としてグアテマラの出版社から出版されました。ただ、現在は点字表記のない絵本として流通しているようです。そこで、知人からグアテマラの出版社に聞いてもらったところ、点字つきの本を出版するにあたり、出版社およびエージェント間でのコーディネイトが難しく、現在、この点字付き絵本として出版するというプロジェクトは様子見の状態で、時期を待っているとのことでした。2013年 ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB 2013) で、見事に出版社特別賞を受賞。今年、2014年夏より、日本国内の美術館で巡回展示が行われます。ぜひ、原画を見てみたいですね。

おはなしのいちぶ

世の中には、たくさんのおはなしが あふれています。トカゲのしっぽみたいに ながいおはなし、みじかすぎて おしまいのことばすらないおはなし、みんなちがっているのです。色とりどりの鳥のはねのように。さまざまな人のかおのように。大きなイチジクの木の、かぞえきれない木の葉のように。

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ときどき午後になると、いろんなおはなしたちが図書館にあつまって、あれこれおしゃべりをはじめます。いちばん人気のおはなしはどれ?いちばんよまれているのは?そして、いちばんあいされているのは?。そんなとき、このおはなしは ためいきをつきながら、ものかげから そっと きいているしかありませんでした。すごいな、みんなのように なれたらなあ、と。

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いつものように、本をさがす目がちかづいてきました。そんなとき、このおはなしは 風にあおられるようにページをふるわせ、本の背をかくしながら、くりかえしとなえるのです。 「わたしは、まぼろし。だれにも、みえない。 わたしは、まぼろし。だれにも、みえない。」

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そんなある日のこと、ちがうさがしかたで本をえらぶ  女の子が あらわれました。

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