3934㎞ 国境を越えて
2026年2月2日

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タイトル3934km 国境を越えて
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原題3934kilómetros
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訳星野由美
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発行年2026
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出版社Type Slowly
メキシコが抱える大きな問題「国境」「移民」をテーマにした小説『3934㎞ 国境を越えて』が、TypeSlowly さんより刊行となりました。
この作品との出会い
すべてはこの本から始まりました。
『わたしはどこへゆく?メヒコ長距離バスの旅』
出版社TypeSlowlyを立ち上げた團尾公佑さんの旅の記録の本です。

(出版社内容紹介より)
移民の人たちは生きるために国境を渡る。なぜ?どうして?その問いかけを、ラテンアメリカの移民の人々と同じ視点で問いかけている、そんな本でした。移民問題を俯瞰した距離から社会問題として捉えるのではなく、彼らと同じ視点で旅をしているこの本に心を掴まれました。そして、メキシコど真ん中の直球の本を出したいとお話を頂いた時、探していく中で、ファン・カルロスさんの本に出会ったのです。
フアン・カルロス・ケサダ
39343934 Kilómetros(Juan Carlos Quezadas 著、Ediciones Castillo刊)

この物語は、中米のエル・サルバドルで暮らす主人公の少女マリア・イレーネ・マダリアガ(愛称ネコ)が、故郷を逃れグアテマラ、メキシコ、さらにアメリカ合衆国へ入国する旅の移動を綴った物語です。子どもや女性といった脆弱な立場の者が受ける暴力、国境の冷酷な偽善、移民収容所での人権を無視した待遇が浮き彫りになる中、世代の異なる女性三人の不屈の連帯と友情が切ない光を放つように美しく描かれています。
この本を読みはじめたとたん、ハラハラドキドキが止まらず、一心にページをめくってしまう……、そんな作品でした。そしてメキシコの旅の記録を綴った團尾さんの視点と、メキシコの壁を越える人々を綴ったファン・カルロスさんが、同じ問いかけをしているように思えたのです。
「もしかしたら、あたしたちはぴったりの問いを見つけるために生まれて、その問いにようやくこたえることができた時に死ぬのかもしれない。 (3934㎞ 国境を越えて 本文より)
移民をめぐる問題は、時代が移ろってもなお、終わることのない現在進行形の問いかけ。フアン・カルロスさんの物語の根底には「移民」というテーマが据えられていますが、それを死と向き合う人間の根源的な問いとして物語が綴られています。私は、フアン・カルロスさんの直感に優れた文章がとても好きです。短く力強いフレーズと繊細な比喩を織り交ぜた詩的な文体は、率直で誠実そして内面に潜り込むような鋭い洞察があり、読む者をグイグイ引き込む力がありました。さらに、メキシコ人作家が自国の問題として真正面から綴ったこの物語は、アメリカに忖度することなく、ラテンアメリカの側に生きる心情と視点に根差している。そこにこそ、この作品を伝える意義があると強く思ったのです。
作者のファン・カルロスさんにお会いして
ラテンアメリカで最大のブックフェアが、毎年、11月~12月にメキシコのグアダラハラで開催されます。このグアダラハラ・ブックフェアで、Type Slowlyの圓尾さんと一緒に、作者のフアン・カルロスさんに実際にお会いして打ち合わせをしました。

Type Slowlyという出版社を立ち上げた圓尾さんは、誰よりも深くメキシコを愛している編集者です。そして圓尾さんもフアン・カルロスさんも、推しのチームこそ違えど、メキシコサッカーをこよなく愛するおふたり。圓尾さんの本からフアン・カルロスさんの本につながり、そのおふたりと一緒にお会いできたことは、作品を通じて ”つながった” 気がして、嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
移民、国境、人権をテーマにした骨太な作品ですが、何より女性の連帯をうったえる作品だと思っています。特に「ソチトル」の章では、居場所を失った3人の女たちが、滑稽で美しくて純粋な光を放っていました。映画のワンシーンのように場面が次々と現れ、ちっぽけでカスみたいな “ネコ”が、私のネコになって、私たちになって、「それじゃあ、また」って別れる。もう2度と会えないのに……。
ページをめくっていくと、時にメキシコの乾いた空気が体に流れ込んでくるような、まるで五感で読む体験にもなっているのではないかと思います。
砂を噛むような渇き
野獣列車の轟音
夜の静寂
手のひらを裂く痛み
―― 世界を知ることは、誰かの痛みを知ること。
『3934km 国境を超えて』
どこかでお手に取っていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
3934km 国境を越えて www.amazon.co.jp
内容紹介(TypeSlowlyHPより)
Type Slowlyの9冊目は、メキシコ、中南米の抱える大きな社会問題「移民」に、メキシコ人作家が真っ向から挑んだ作品『3934km 国境を越えて』です(フアン・カルロス・ケサダス著、星野由美訳)。メキシコシティの出版社カスティージョから2019年に出版された小説で、原題は『3934kilómetros』。
なぜ危険な思いをしてまで故郷を離れ、アメリカを目指すのか? その道中にはどんな困難が待ち受けているのか? アメリカにたどり着いたその先には何があるのか?3人の女性を主人公に、あらゆる角度から取材をもとに、現実よりもリアリティをもった作品として読んでいただける小説になっています。本国メキシコでの評価も高く、カスティージョ・イスパノアメリカ文学賞を受賞しました。
2025年12月、メキシコのグアダラハラで開催されたラテンアメリカ最大のブックフェアFIL(Feria Internacional del Libro de Guadalajara)で、著者のフアン・カルロス・ケサダスさんとミーティングをしてきました。日本で本書が出版されることを本当に喜んでおり、Type Slowlyとしても、この本をより多くの人に届けたい、という思いがさらに強まりました。
装画を担当してくれた画家の津田周平さんの絵も、本書の読みどころのひとつです。表紙だけでなく、中ページにもカラーの絵を6点ほど掲載しています。小説のテーマにぴったりあったダークな色調の津田さんの絵が、本書をより引き立てています。こちらもぜひ書店でチェックしていただけたら嬉しいです。画家の津田周平(文芸誌「MONKEY」の表紙絵などを担当)による装画も本書を深みのあるものにしています。
[著者プロフィール]
著 フアン・カルロス・ケサダス
1970年メキシコシティ出身。メキシコ児童文学においてもっとも評価の高い作家の一人。『二人の幽霊の伝記:幽霊小説』でバルコ・デ・バポール賞、『都市X 1985』でフアン・デ・ラ・カバダ児童短編小説芸術賞、『幽霊の目から』でバルコ・デ・バポール賞、『Shin』でノルマ児童文学賞など受賞歴多数(いずれも未邦訳)。 本書『3934km 国境を越えて』でカスティージョ・イスパノアメリカ文学賞(YA部門)を受賞。
訳 星野由美
1969年東京生まれ。早稲田大学卒業。出版社勤務を経てベネズエラへ渡り、帰国後は在日中南米人向け衛星放送局、ペルー大使館に勤務した。現在はスペイン語圏の児童書の翻訳を主に手がける。『パパはたいちょうさん わたしはガイドさん』で第72回産経児童出版文化賞翻訳作品賞受賞。訳書に『それからぼくはひとりで歩く』、共訳に『フリーダ・カーロの日記』などがある。
