ジャガイモ、トマト、トウモロコシ、世界で愛される野菜のひみつ
2021年9月6日
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原題Sabor de America
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発行年2009年
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出版社La editorial Amanuta (アマヌタ社)
<南米チリの子ども向け出版社> -
その他2010年ホワイトレイブンス 選定 (ミュンヘン国際児童図書館の優良図書)
2010年 チリ図書会議所出版賞
マクロビオティックが流行して以来、野菜が主食のレストランもあるほど、野菜は見直されています。その流れにともない、野菜の料理本や野菜の植物誌および歴史を知る本もたくさん出版されました。また、子どもの世界でも「食育」という言葉が多く使われるようになり、食の大切さを伝えようとする動きが出ています。
今回のご紹介するのは、南アメリカ原産のジャガイモ、トマト、トウモロコシ、トウガラシ、ピーナッツ、カカオ、ピーナッツ、その他10種類の野菜や果物を取りあげて、エピソードを交えて子ども向けに紹介した野菜の起源を知る絵本です。
上記の野菜はだれもが知っている身近な野菜ですが、その起源や歴史は実はあまり知られていません。ラテンアメリカ原産の野菜にまつわるエピソードを通じて、身近な野菜の歴史を知るとともに、世界史および食育に興味をもってもらえそうな絵本です。子どもがつくれるかんたんな料理のレシピも掲載しています。 (対象年齢:小学校高学年~)
作者について
文: アナ・マリア・パベス(Ana María Pavez)
2001年、子ども向け出版社、アマヌタ社を設立。以後、子供向けの絵本を通じて先住民の文化の伝承、継承を発展させるための教育活動に従事している。今までに携わってきた先住民の暮らしに関する絵本は、編集等含め18冊にのぼる。さらに、プレ・コロンビアン・アート・チリ博物館でコンサルタントとして活躍する他、マヤ、ケチュアの神話をベースにしたアニメーション作品を制作。エール大学で考古学の博士号を取得。チリのサンティアゴ在住。
コンスタンサ・レカルト(Constanza Recart)
小児精神科医。先住民文化の継承・伝承に興味があり、それが子どものアイデンティティーの確立および形成に大事なテーマであると考え、友人のアナ・マリア・パベスとともにアマヌタ社を設立。精神科医として子どもの世界に詳しいことから、先住民の文化および社会的遺産の知識を持つパベス女史と共同で多くの作品を執筆している。
上記作者が共著で手掛けた主な作品(いずれも未邦訳)
キワラシリーズ (文:アナ・マリア・パベス、コンスタンサ・リカルト 絵:パロマ・バルディビア)
『火の石(Piedras de Fuego)』(2003年)
『キツネのかけごと(Las Apuestas del Zorro)』(2005年)
『南の世界のイルカたち(Los Delfines del Sur del Mundo)』2005年
『プロモ山の子ども(El niño del Plomo)』2006年 他多数
イラスト:イサベル・オーハス(Isabel Hojas)
1977年、チリのサンティアゴ生まれ。チリカトリック大学で造形美術を専攻。以後、主に、子ども向け絵本のイラストレーターとして活躍中。
イラスト担当作品:いずれも未邦訳
『マルガリータ(Margarita)』2006年
『金のなみだ(Lágrimas de oro)』2007年
『旅する詩人ガブリエラ・ミストラル(Gabriela, la poeta viajera)』2007年
『ジェイミー・ボトンの大冒険(El insólito viaje de Jemmy Button)』2008年 他多数
あらすじ
① トウガラシ
トウガラシは、スペイン語で「チレ」または「アヒ」とよばれるトウガラシ科の植物です。ラテンアメリカ原産で、大きさ、色、辛さなどさまざまな種類があります。はじめてトウガラシを広めた人物は、新大陸を発見したクリストファー・コロンブスでした。コロンブスはトウガラシを見つけたとき、これを「インドのコショウ」とかんちがいしてしまいました。トウガラシはメキシコの先住民の間で治療薬や、敵から身を守る手段にも使われていました。
紹介レシピ:ぺブレ
② カカオ
カカオ(Theobroma cacao)はアオギリ科の木で、木の幹に花が咲き実をむすびます。カカオの実には、白い果実と約60つぶの豆が入っています。そしてカカオ豆が加工されると、チョコレートになるのです。中央アメリカの先住民であるマヤ族の間では、カカオは王家の飲み物でした。しかし、やがてヨーロッパへ持ちこまれ、はちみつや砂糖をチョコレートに加えて飲むようになりました。また、メキシコのアステカ族の人々は、カカオの種を通貨として使用していたのです。
紹介レシピ:ピーナッツ入りクランチチョコレート
③ ピーナッツ
落花生、別名ピーナッツ(Arachis hypogaea)は、長さは30~50㎝のマメ科の一年草です。花が咲いた後、実になる部分が土に向かってどんどん伸び、土の中にささります。ささった先が土の中でふくらみ、さやができます。そのさやの中で育つ豆がピーナッツです。ピーナッツは南アメリカ原産で、ボリビアの低地では、約5千年以上も前から栽培されていました。しかし、ピーナッツを南アメリカで食べ物として広めたのは、植民地時代に奴隷として連れてこられたアフリカの人々だったと言われています。また、ペルーの北部のシパン王の墓には、ピーナッツの形をした金の首輪が装飾品として発見されました。
紹介料理:ピーナッツパスタ
④ バニラ
バニラ(Vanilla planifolia)はメキシコ原産のラン科の植物で、バニラビーンズと呼ばれる豆のような果実をつけます。果実からとった香料は、デザートや飲み物の香りづけに使われています。メキシコの先住民、アステカ族の人々は、バニラを花とかんちがいして「黒い花」と呼んでいました。15世紀までは、ハチドリやハチによって受粉が行われていましたが、1841年以降、フランス人によって人工授粉が行われるようになりました。スペイン人は、チョコレート(カカオ)といっしょにバニラをヨーロッパに持ちかえりました。とくべつな栽培方法でいろいろな香りをつくりだしたため、バニラは「神秘の植物」とよばれていたのです。
紹介レシピ:バニラ風味のビスケット
⑤ イチゴ
イチゴ(Fragaria ananassa)は、赤く熟した香りのよい果実を食用とする植物で、さまざまな種類があります。ふつうイチゴといえば、オランダイチゴ(ストロベリー)のことをさします。原産地は南アメリカのチリですが、オランダイチゴ(ストロベリー)は、北アメリカ原産のイチゴとの交配によって生まれました。
紹介レシピ:イチゴシェイクとイチゴアイス
⑥ アボガド
アボガド(Persea americana)は、約9千年前からメキシコで食べられてきた果物です。スペイン人たちは、洋ナシに似ていたことから「インドのナシ」と名づけました。彼らは、アボガドに砂糖や塩をつけて食べたり、デザートとして洋ナシのように皮をむいて食べたりしていたのです。
紹介レシピ:ワカモ―レ
⑦ トウモロコシ
トウモロコシ(Zea mays)は、中央アメリカや南アメリカのアンデス地方の村で主食としてたべられていました。コロンブスがヨーロッパに持ちかえり、1498年には、すでにスペインで栽培されていたことが記録に残されています。トウモロコシはゆでたり焼いたりして食べたり、細かく砕いて粉にしてパンケーキ(トルティーヤ)をつくったり、発酵させてお酒にしたりしていました。
紹介レシピ:コーンサラダ
⑧ ヒマワリ
ヒマワリ(Helianthus annum)は、太陽のある方を向き、その動きにつれて回る植物と言われ、北アメリカ西部とメキシコ北部で5千年前から栽培されていました。使用方法は様々で、食用や薬用としてだけでなく、儀式用としても栽培されていました。ヒマワリの種にはビタミンEとミネラルがたっぷり含まれています。そのため油やお菓子に使われたり、そのまま炒って食べることもできます。
紹介レシピ:ヒマワリの種ドレッシング
⑨ チリモヤ
チリモヤ(Annona cherimola)は、南アメリカのペルーやエクアドルが原産の果物です。うすい緑色の皮の中には白い果肉があり、やわらかくとても甘い味がします。ちょうど、パイナップルとマンゴーとイチゴをまぜ合わせたような味だとも言われています。多くの食べ物をヨーロッパにもちこんだスペイン人によると、チリモヤは南アメリカ原産の食材の中で一番おいしいと言われていました。
紹介レシピ:チリモヤ・アレグレ
⑩ カボチャ
カボチャ(Cucurbita)はウリ科の野菜で、約8千~1万年前にメキシコで栽培されはじめました。カボチャには、じつにさまざまな種類があり、なかには食べられないものもあります。また、南アメリカでは、昔はカボチャの果肉だけでなく種や花も食べられていました。カボチャは世界一大きな実をつけることから、この大きさを競うカボチャコンテストが世界各地で行われています。600キロ以上もする重さのカボチャが、たくさん出ているのです。
紹介レシピ:パンプキンマフィン
⑪ トマト
トマト(Solanum lycopersicum)は、南アメリカ原産の野菜です。メキシコのアステカ族は、トウガラシの辛さを弱めるためにトマトをまぜて料理していました。今では、トマトはイタリア料理には欠かせない食材ですが、初めのころヨーロッパでは、食べ過ぎると体に毒だと思われ、長い間受け入れられませんでした。初めてトマトの種が発見されたのは約9千年前で、ぺルーの墓で発見されました。アンデス地方で見つかったトマトは、種が小さく野生植物でしたが、後に中央アメリカへ持ちこまれ栽培されるようになり、現在の大きさのトマトができたと言われています。
紹介レシピ:トマトとモッアレラサラダ
⑫ じゃがいも
じゃがいも(Solanum tuberosum)は、南アメリカ原産の塊根(養分を蓄えて大きくなった根)植物の野菜です。約1万年前、ぺルーやボリビアの標高4千メートルのアンデス高地で栽培されていました。じゃがいもの種類は約2千5百以上もあり、色も白、オレンジ、黄、紫とさまざまです。じゃがいもは、ヨーロッパで受け入れられるようになるまで長い年月がかかりましたが、徐々に広まっていき欠かせない食材となりました。また18世紀には、フランスの王妃マリー・アントワネットが髪にジャガイモの花を飾りにつけたことから、ジャガイモの花飾りが流行しました。
紹介レシピ:ポテトのオーブン焼き
⑬ パイナップル、サボテン、パパイヤ
パイナップル(Ananas coosus)、サボテン(Opuntia ficus-indica)、パパイヤ(Carica papaya)、これらはすべて熱帯アメリカ原産の果物です。どれも色や形がめずらしい果物ですが、その味と香りのすばらしさは、たちまちヨーロッパ人たちを魅了しました。
紹介レシピ:ミックスフルーツの砂糖づけ
⑭ キヌア
キヌア(Chenopodium quinoa)は、プロテインや炭水化物を多く含む穀物です。原産地はチリ、ぺルー、ボリビア、コロンビア、エクアドルです。アンデス地方の人々は、5千年も前からキヌアを栽培していました。インカ時代、キヌアは「聖なる種」として、「生命の源」や「母なる種」と呼ばれていました。また、炎症を抑える効果があるため、アンデスの人々は喉の痛みや外傷を直す治療薬としても使用していました。
紹介レシピ:キヌアのサラダ
⑮ インゲンマメ
インゲンマメ(Phaseolus)はマメ科の一年草で中央アメリカ原産の野菜です。さやの中にたくさんの種がなり、豆として食べられています。インゲンマメは、8千年以上前にペルーやメキシコで栽培されていました。また、インカの人々は食糧貯蔵庫にインゲン、トウモロコシ、トウガラシなど、たくさんの食料を保管し、必要に応じてそこから取りだし使っていました。
紹介レシピ:インゲンとタマネギのサラダ
⑯ サツマイモ
サツマイモ(Ipomoea batatas)は、サツマイモ属の塊根植物の野菜です。色は紫、黄色、白など、種類によってさまざまです。ぺルーで、約1万年前のサツマイモの一部が発見されています。また18世紀には、ヨーロッパ人がポリネシアでサツマイモを発見しました。彼らがヨーロッパにサツマイモを持ちこんだのか、それ以前に、すでにヨーロッパにもちこまれていたのかは、いまだに分かっていません。サツマイモは焼いたりふかしたりゆでたりなど、さまざまな調理法が存在しますが、昔は、かゆみどめや髪の毛の染料としてもつかわれていたのです。
紹介レシピ:焼きイモ
⑰ ガムの木
ガムは、サポティラの木の樹液からとった植物樹脂、チクルからできています。熱帯アメリカが原産で、中央アメリカに住む先住民が噛んでいたのが起源といわれています。1859年、はじめてチューインガムは商品として出まわるようになりました。さいしょ味がないものでしたが、その後、甘味のあるミントやフルーツ味のチューインガムが売られるようになったのです。
紹介レシピ:チューインガムのふくらましかた
エピソードの一部
トウガラシ
コロンブスのかんちがい
だれにでも、まちがいはあるもの…。さいしょにトウガラシを広めた人物は、新大陸を発見したクリストファー・コロンブスでした。コロンブスはトウガラシを見つけたとき、これを「インドのコショウ」とかんちがいしてしまいました。考えてもみてください。それまでヨーロッパ人は、トウガラシを見たこともなかったのです。その後もヨーロッパでは、「チレ」という呼び名はトウガラシのことではなく、ピーマン、パプリカ、コショウ、ペペローニの名前として広まっていきました。
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香辛料の治療
メキシコの先住民は、トウガラシをぬり薬やさまざまな治療薬としてつかっていました。たとえば咳どめには、トウガラシの入ったハーブティーを飲んだり、耳の炎症には、トウガラシの入った点耳薬をつくったりしていました。また舌の傷には、トウガラシと塩をまぜた薬をぬったりもしていたのです。さらに虫歯による歯の痛みをおさえる薬にも、トウガラシがつかわれていたのです。
トウガラシは強力な武器
トウガラシが武器になるかもしれない。そんなふうに考えたことはないですか?じつは、アステカ族の人々は、トウガラシを武器としてつかっていたのです。トウガラシの特性をうまくつかい、敵から身をまもる手段として、トウガラシを利用しました。たとえば、トウガラシを焼き、その煙で敵を息苦しくさせたと言われています。また、子どものお仕置きに、トウガラシの焚き火の煙を吸わせるという方法もつかわれていました。
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カカオ
チョコレートは王家の飲み物
マヤ族はカカオ豆から苦い飲み物をつくり、国王や王家の一族のためにささげていました。国王たちは、この飲み物を装飾入りの高価な容器に入れて飲んでいました。
コロンブスは、初めてカカオ豆を発見したヨーロッパ人だと言われています。しかし、チョコレートとよばれる飲み物を初めて飲んだのは、メキシコの征服者であったエルナン・コルテスでした。この飲み物は、炒ったカカオに、水とトウモロコシの粉とトウガラシを加えてできたものでした。コルテスがこのチョコレートを気に入ったかどうかは分かっていません。いずれにしても1544年に、マヤの王族たちが貴重な品々といっしょにチョコレートをヨーロッパに持ちこんだと言われています。いっしょに持ちこんだ品々の中には、ケツァールの鳥の羽根、トウガラシ、トウモロコシなども入っていました。
チョコレートの通貨
アステカ族だけでなく、マヤ族たちもチョコレートを飲んでいました。そればかりか、カカオ豆は通貨として使用され、カカオ豆で商品を買うことができたのです。たとえば、ウサギ一匹の値段はカカオ豆30個分、アボガドはカカオ豆3個といった具合でした。カカオ豆はとても貴重だったので、ほかの種に土をまぶした、にせものが出まわることもありました。さて、みなさんも想像してみてください。買い物をたのまれたときに、チョコレートのお金をわたされたらどうしますか?つい、食べてしまうかもしれませんね。
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