ころりん ころらど

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~ラテンアメリカやスペイン語圏の絵本を中心にご紹介します~

トーマスさんちのネズミたち

2021年9月6日

  • 原題
    Don Tomás y los ratones
  • 作者
    ホセ・ワタナベ
  • エドゥアルド・トケシ
  • 発行年
    2007年
  • 出版社
    Ediciones PEISA (ペイサ社)

以前、ホセ・ワタナベさん作のペルーの絵本『ちょっとかわった おかしないぬ』 をご紹介しましたが、今回の絵本『トーマスさんちのネズミたち』は、ホセ・ワタナベ氏のお話に、ペルーで活躍する現代アーティストのエドゥアルド・トケシさんがイラストを担当した、いわばペルーで活躍する日系人コンビが手がけた絵本です。トケシ氏は、今は亡きホセ・ワタナベさんとも交友が深かった方です。トケシさんの描く動物の絵をぜひ紹介したくてコンタクトを取ってみたところ、快く承諾していただいたので、レビューと一緒にトケシさんのイラストもご紹介させていただきます。

あらすじ

トーマスさんは、トウモロコシのしゅうかくをおえたばかり。木のイスにすわり、ひぼしにするために山づみにしたトウモロコシのいなほを まんぞくそうにながめていました。そこへとつぜん、2ひきのネズミがトウモロコシのあいだから すがたをあらわしました。とれたてのトウモロコシをたべられたらたいへん!さっそく、ネズミたいじをはじめることにしました。

まずは、ネズミたいじにネコをかいました。つぎに、ネコたいじにイヌをかい、イヌたいじにおばけ(!)をつくり…と、もんだいは大きくなるばかり。トーマスさんの手づくりおばけに、まいごのチビおばけもいっしょになり、マスコミや科学者たちは大さわぎ。でも、おばけのしょうたいがトーマスさんの手づくりだとしると(チビおばけのなぞは のこしたまま)、みんないっせいにかえっていきました。

しばらくしてトーマスさんが、あらされたトウモロコシの山をかたづけていると、なぞのチビおばけが またまた すがたをあらわしました。なにかへんだとおもったトーマスさん、おばけの布をおそるおそる とってみると、なんと あの2ひきのネズミだったのです!

ほかのネズミをよばないことをやくそくしに、トーマスさんは2ひきのネズミをうけいれることにしました。そして、ようやくへいわな日にもどることができたのです。
(対象年齢:6歳から)

感想

ネズミ、ネコ、イヌ、おばけと、子どもが興味を持ちやすいキャラクターが登場し、大胆な構成と色彩豊かな色づかいのイラストで描かれた絵本です。特に動物の絵はどれも個性的で、気高いネコや、ふてぶてしいイヌの顔つきがとても生き生きとした描写になっています。次々に問題が膨れ上がっていく展開に、子どもは興味をひきつけられるでしょうね。楽しく素敵な絵本です。


インターネット書評
 ペルーの書店 Libros Peruanos (リブロス・ペルアノス)より
ペイサ社のキルキンチョシリーズから、6歳以上の子どもを対象にした新しい絵本が出版されました。ホセ・ワタナベのストーリーに、エドゥアルド・トケシの色彩豊かなイラストの絵本は、トウモロコシ農夫のトーマスさんの生活について描かれたものです。
―(以下、中略)―

身の周りで起こるちょっとした不快な出来事、それにこだわりすぎて、いつの間にか思わぬ方向へモノ事が進み大きな問題になってしまわないように、たとえ苦手な相手でも対話によって問題を解決できるのだということを、楽しく展開するストーリーを通じて、この作品は子どもたちに気づかせてくれるでしょう。

作者について

文: ホセ・ワタナベ

1946年、ペルー北部のリベルター州ラレドの農場で生まれた。父親は日本(岡山県)からの移住者で、ペルー人(白人と先住民の混血)と結婚し、家族で農場に従事した。1970年、詩誌『クアデルノス』主催の若手詩人コンクールで最優秀賞を受賞し、詩人としての評価を得た。詩集に『家族のアルバム(1971)、『言葉の紡錘』(1989)、『博物誌』(1994)、『身体の事々』(1999)があり、他にこれら4詩集からの選詩集『氷の番人』(2000)がある。以後、『翼のついた石』(2005)、『霧の陰の旗』(2006)を出版。詩人としての活動の他、映画や芝居の戯曲を執筆、ナレーターや子ども向けテレビ番組のプロデューサーとしても活躍した。2007年、癌で逝去。

ホセ・ワタナベ氏について
ずっと前、ホセ・ワタナベ氏の詩作品の数点を日本の詩の雑誌で紹介することになり、翻訳の了承をとる仲介コーディネイトのようなお手伝いをさせていただいたことがありました。『氷の番人(El Guardián Del Hielo)』というアンソロジーの詩集から数点を選び下訳を担当させていただき、ペルーでご本人にお会いしました。移民資料館を案内してくれて、その後、喫茶店でお茶をして…。

ペルーの街はものすごくにぎやかだったのに、ご一緒した時間はゆっくりと静かに流れていたような気がします。ご自分の作品にある日本や日本人像は、もはや存在しないとおっしゃっていました。当時、娘さんが日本に住んでいて、現代の日本の事情もよく分かっていらっしゃいました。

ワタナベ氏の詩を読むと、今の日本に失われつつあるもの、大切なものを改めて考えさせられます。時に涙が出るほど美しい詩が、スペイン語で書かれています。

そんなワタナベ氏の詩の中で特に好きなのは、『KIMONO』という詩です。厳格な父親が母親に着物を贈ったとき、母親が静かに涙する場面を書いています。”jose watanabe kimono”で検索すると、様々なサイトで紹介されています。

絵:エドゥアルド・トケシ

1960年、ペルーのリマで生まれる。日系3世。ペルーカトリック大学芸術学部卒業。ペルーの現代美術界を代表する芸術家。世界各地で個展や展覧会を開催する等、幅広く活躍中。

公式サイト http://www.eduardotokeshi.com/

ペルー最大手新聞 El Comercio(エル・コメルシオ)2007年427日の掲載記事
―故ホセ・ワタナベ氏について、エドゥアルド・トケシ氏のコメント

「彼は詩人であり、舞台美術家、シナリオライター、映画監督でもあった。ホセは私の友であり、兄弟のような存在だった。彼のようなクリエイティブな人物が亡くなると、我々はもはや彼の作品に触れることができないのだという虚無感でいっぱいになる。彼との最後の仕事は、絵本『トーマスさんちのねずみたち』の作品だった。この本は彼の多才な能力を証明している。子ども向けのストーリーを書くことは、実際よりもはるかに多くのことを可能にする唯一の手段だ」

おはなしの一部

トーマスさんは、たかいのいすにすわって、にわにつんだトウモロコシを ながめていました。

トウモロコシを ひぼしにしていたのです。

―いままでで いちばんのできだぞ―  トーマスさんは、おもいました。

しかしとつぜん とんでもないものが すがたをあらわしたのです。

1ぴきは しろ、もう1ぴきは はいいろの 2ひきのネズミが、トウモロコシをたべているではありませんか!

トーマスさんは、かんがえました。

―ネズミは、ぜったい2ひきですむわけがない。3びき、4ひき、5ひきと、あしたには、たくさんのネズミがやってきて、だいじなトウモロコシをぜんぶたべてしまうかもしれない―

そうかんがえているあいだにも、ネズミたちは、1ぽんのトウモロコシのはんぶんを たべつくしてしまいました。トーマスさんは ほうきを手にもち、ネズミたちをおいかけました。バッサ、バッサと ほうきでたたきましたが、ほうきはトウモロコシにあたるばかり。ネズミたちの、なんとすばしっこいこと!はしっては とまり、はしっては とまりと、ほうきを みごとにかわしていきました。

・・・・・

トーマスさんは、ふと あることを ひらめきました。

―そうだ、ネコだ!なぜ、おもいつかなかったんだろう?げんきがよくて するどいきばのネコをかえばいいんだ!―

・・・・

―そうか、なんだ かんたんじゃないか!イヌだ、イヌをかえばいいんだ!

イヌをみれば、ネこは にげだすにちがいない―

・・・・・

そのときです。すばらしいかんがえが、ひらめいたのです。

―そうだ!おばけをみつければいいんだ!―

しってのとおり、イヌは おばけがにがてなはず。くらやみで、おばけをみれば、うなりごえをあげて、こわくなってふるえながら かいぬしのもとににげこむにちがいありません。

―おばけなら、イヌたちをおいはらってくれるにちがいない―

・・・

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