ヌーク じぶんさがしのたび

■ 原書の情報

タイトル:historia de nuk

仮題:ヌーク -じぶんさがしのたび-

文:パロマ・サンチェス・イバルサバル (Paloma Sanchez Ibarzabal)

絵:ナターシャ・リーゼンバーグ (Natascha Rosenberg)

出版年2012

出版社:ナーバル出版社 (Narval Editores)/スペインの児童書専門出版社

 

■ あらすじ

つめたい風が ぴゅーっとふいて 木のえだをゆらしたそのときです。ヌークは、うまれてはじめて 目をさましました。ところが、風は おおいそがし。あっといまに ちっちゃなヌークは風につかまえられて、とおくへ はこばれていきました。ヌークは、じぶんがなにものなのか わかりません。こうして、ヌークのじぶんさがしの旅がはじまります。

風にはこばれて出会う さまざまな自然や動物たち。空をとぶ美しいピンクフラミンゴにうっとりしながら、ヌークは想いをめぐらせます。もしかしたら、わたしは とり? 山ふぶきのなかで、ヌークは思わずにはいられません。「もしかして、わたしは ゆきのかけら?」

すなぼこりがたちこめる さばくでは…「わたしは とるにたらない すなのつぶ?」 山あいにひろがる ヒナゲシの花ばたけでも…「もしかして、わたしはチョウチョ?」「ひょっとしたら、ブンブンバチ?」「それとも、雨つぶ?」

ところがヌークの期待もむなしく、雨水にながされて、ヌークは深い土の奥へ入りこんでしまいます。この時ばかりは、風もどうすることもできません。あたりいちめん まっくらやみ!こわくて、さみしくて、さむくて…。ヌークは おひさまのことが なつかしくなって、とうとう なきだしてしまいました。なきながら思いだすのは、とりになりたかったこと。チョウチョに なりたかっとこと。ハチ、はっぱ、ゆきのかけら、とるにたらない すなのつぶさえも…。

そのときです。母なる大地がヌークの悲しみに心をしめらせ、やさしく だきしめてくれたのです。まっくらな やみも、ヌークの悲しみをくみとって、かぎりない やみのふかさで つつみこんでくれました。ふしぎな ぬくもりのなか、ヌークはいつのまにか ねむってしまいました。

雪がとけ、目覚めの時がやってきました。ヌークは おひさまが やさしくふれてくれるのを かんじました。とうとう、あのくらいばしょから、ぬけだすことができたのです。ふたたび風がぴゅーとつよくふきました。「つれてって!」と、ヌークは 風にたのみます。けれども、それはかないません。それもそのはず、そこにいるのは すっかり かわった じぶんの すがた! みんなが、ふしぎそうに あつまってきました。

ヌークは、いったい なんだったのでしょう?

 

ヌークは…
ちいさな いっぽんの 木になっていたのです。

 

■ 書評

デジタル文学書評雑誌「インクの海(El mar de tinta)」より(2012年11月4日掲載)

パロマ・サンチェス・イバルサバルは、この絵本で生命をテーマにした作品に挑んでいます。自我の目覚めは幼少期の早い段階から始まり、一生涯続いていくものです。子どもは10歳頃までの間はスポンジのように様々な情報を吸収していきますが、それらは両親や先生、周囲で支えてくれる親しい人々からもたらされるものです。この情報は教育によるところでもあり、自我は個性や感性とともに育まれていきます。また、明日という日をどう生きるか、ということにもつながっていきます。

パロマのお話は楽しいだけではありません。私たち一人一人は、周囲の環境に関係なく大切な存在であることを、この物語は子どもたちに教えています。さらに、分かりやすい易しい言葉で、ヌークの旅はだれもが経験する自分探しの旅であること、その旅は自分自身で楽しんで感じるものだというメッセージも、お話の全体から伝わってきます。つまり、この絵本『ヌーク -じぶんさがしのたび-』は、あせらずに「なぜ?」「どうして?」を積み重ねていけば、自分の生きる居場所はきっと見つかるというお話なのです。

この絵本のイラストを担当しているナターシャ・ローゼンバーグは、児童書およびデザインの世界で10年以上のキャリアを持つドイツ人(育ちはスペイン)アーティストです。彼女は、今回このお話の小さな主人公をとても可愛らしく描いており、絵のタッチがテキストにぴったりマッチしています。他の作品をみても、彼女の描く絵は子どもの関心を強く引きつける才能にあふれています。

豊かな表情のヌークと、赤、緑、オレンジ、青の鮮やかな背景の色使いから、温かい生き生きとした様子が伝わってきます。また、主人公をはじめ登場人物たちの可愛らしい動物たちの絵を見たら、「こんな絵を描きたい」という気持ちを、子どもたちに起こさせるかもしれません。絵本『ヌークのじぶんさがしのたび』は、子どもから大人まで楽しめる作品です。みんなと違うことは重要ではないのだと、心に深く残るでしょう。

 

■     作者について:

文:パロマ・サンチェス・イバルサバル(Paloma Sánchez Ibarzábal)

1964年、スペインのマドリッド生まれ。作家、児童・ヤングアダルト文学の批評家。心理学及び情報科学を学び、数年間、図書館に勤務した。2005年、文学の世界に専念することを決意し、児童書『風の魔法使い』、『エコーとともに』、『おぼろげなお話の歴史』(いずれも末邦訳)を執筆、出版した。『おぼろげなお話の歴史』は、2009年のラサリーリョ賞(スペインで権威ある児童文学の賞)の最終選考に選ばれた。

 

作者パロマ・サンチェス・イバルサバルのインタビュー(一部抜粋)

Q.「ヌークのおはなしは、どのように生まれたのですか?」

A. 「実のところ、お話がひらめいた瞬間はいつだったのかということは、よく覚えていないんです。ただ、ちょうど親しい知人が問題に陥っていた時だったと思います。時として、なぜ人生は生きる居場所を見失わせるのだろう…。そんなことを私自身も考えていたんです。どう生きてよいのか、どこへ行けばいいのか分からない。私たちは辛い経験をしたり、希望をなくしてしまうこともあります。でも、たとえ暗闇で不安の中にあっても、時がきっと癒してくれる。種をメタファーにして伝えたかったのは、どこへ行くのか分からず運命に身をさらし、たとえ深い土の奥に埋められ希望を失いそうになっても、最後には予期せぬすばらしいことが待ちうけているということです。」

Q.「 『ヌークのじぶんさがしのたび』は、どんな人たちに読んでもらいたいですか?」
A.「あらゆる疑問がくりかえし頭に浮かんで、不安を抱えながら馴じめずにいる人。自分を知ろうと答えを探している人。そんな読者に、ヌークのお話は好まれるかもしれません。

 

主な作品歴(未邦訳)

2007年 『ドラゴンを自由にする方法を知っているのはだれ?(Quien sabe liberar a un

     dragon?)』Ediciones SM 社
2010年 『漁師とくじら』QQQ Editora社
2010年 『家がみつからないとき(Cuando no encuentras tu casa)』QQQ Editora社
2011年 『ロサリンほどものをみてる子はいない(Nadie ve las cosas como Rosalin)』

Luis Vives Editorial社
2012年 『はじめてのたび(Mi primer viaje)』QQQ Editora社
2012年 『ヌークのじぶんさがしのたび(Historia de Nuk)』Narval Editores社
2012年 『もしも、ねこだったら( Si yo fuera un gato)』QQQ Editora社
他、多数

 

 

絵:ナターシャ・ローゼンバーグ(Natascha Rosenberg)

ドイツのミュンヘンに生まれ、スペインで育つ。マドリッドの大学で法律を専攻、卒業後に絵の道へ進む。1998年からフリーランスとして、子ども向けの本のイラストやデザインを手掛ける。現在はドイツとスペインで書籍のイラストに携わりながら、国内外の展示会にも多く出品している。

 

主な作品歴(いずれも未邦訳)

2003年 『カルロッタ、アマゾンへいく(Carlota se va a la selva)』Beascoa Ediciones社
2006年 『クリストバル・コロンはだれ?(Quien era Cristobal Colon?)』Edebe社
2011年 『ママがねむれないとき(When Mama Can’t Sleep)』NorthSouth社
2012年 『ヌーク -じぶんさがしのたびー(Historia de Nuk)』Narval Ediciones社
2012年 『きみのからだ(Your Body)』Sagebrush Education Resources 社
2012年 『なぜ?(Why?)』Campbell Books Ltd社
他、多数

 

 所感

この絵本を自宅の居間に置いていたところ、子どもの方から「読んでほしい」とお願いされました。絵が可愛らしく興味を持ったのでしょう。実際に読み始めたところ、ピンクフラミンゴやチョウチョの可愛らしい絵にはニコニコ顔でしたが、大地に埋もれていく場面では顔をこわばらせ、主人公の不安や恐怖を一緒に感じていたようです。もしかしたら一瞬「えっ!思っていた話とちがう?」と、子どもながらに思ったのかもしれません。しかし最後には、思わぬ展開に再び笑みがこぼれ、ほっとしたような表情を見せてくれました。まさに、読み聞かせ甲斐のある絵本でした。

この絵本は二つの楽しみ方ができると思います。一つめは、自分と主人公のヌークを重ねあわせて一緒に旅をすること。もう一つは、ヌークはいったいなにものなんだろう?と、想像をめぐらせていくことです。作者が心理学を専攻していたということもあり、ヌークの心の内面がとてもよく書かれています。うらやましいと思ったり、じぶんがとるにたらない存在だと思ったり、さみしかったり、こわかったり…。人生は一筋縄にいくものではありませんが、この絵本を読むと、前向きに生きる強い姿勢でありたいと思わせてくれる、そんな絵本です。

■ おはなしのいちぶ

つめたい風が ぴゅーっとふいて 木のえだをゆらしたそのときです。ヌークは、うまれてはじめて めをさましました。ところが、風は おおいそがし。あっといまに ヌークは風に はこばれていきました。

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くものあいまを、ピンクフラミンゴが はねをいっぱいにひろげて とんでいました。ながいくびに、ほっそりとしたあし。もしかしたら、わたしは とり? ヌークは、ピンクフラミンゴたちといっしょに 風にのりながら おもいました。うつくしいつばさの とりだったらいいな。まいあさ そらを とびまわって、くもをぬけて おひさまのところまで いきたいな。ヌークは、こころから ねがわずには いられません。ところが、ピンクフラミンゴたちは 空を ひとめぐりすると、ヌークをおいて いってしまいました。

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ふゆになり、ゆきがふりつもりました。ヌークは あなのおくふかくに、どんどん しずんでいきました。あたりいちめん まっくらやみ!こわくて、さみしくて、さむくて…。なんとか外へでようと もがきました。けれど、ヌークのちっちゃなからだの ほんのいちぶでさえ、外のせかいに ふれることができません。

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ヌークは じぶんのすがたを うえからしたまで、こんどは したからうえまで みてみたところ…。おどろいたことに、そこにいるのは すっかり かわった じぶんの すがた! どこへいくのか、どこにいるのか わからないまま、あっちへ こっちへ 風にはこばれていった あのころの じぶんは もういません。

 

みんなが、ふしぎそうに あつまってきました。

さて、ヌークは、いったい なんだったのでしょう?