びっくりプレゼント

タイトル:びっくり プレゼント(Un regalo sorpresa)

作・絵:イソル (Isol)

発行年:初版1998年、現在は第5版(2013年、カラー版が出版されました。)

出版社:フォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ社 (Fondo de Cultura Econo’mica)

 

びっくりプレゼント手話DVD

メキシコ手話のDVD 

ナレーション:ルシーラ・オラルデ(Lucila Olalde)

ディレクター:アルベルト・ロムニーツ(Alberto Lomnitz)

プロデューサー:シタ・アルサーニ(Cita Arzani)

出版社 非営利組織「エンセニャメ(Ensen~ame)」と出版社FCE社の共同制作

 
Copyright:2000年、2008年

 

絵本『びっくり プレゼント』は、1997年にデビューしたイソルさんの第3作目の作品です。じつはこの絵本、手話をメインにしたDVD絵本にもなっています。日本では、2009年 IBBY障害児図書資料センター推薦図書として選書され、日本では『世界のバリアフリー絵本展2009』の1冊として展示されました。

 

■ あらすじ

おたんじょう日の前の日、家にひとりおるすばんしていたニノは、クローゼットの中にかくしてあったプレゼントの箱をぐうぜんみつけます。「なんだろう?」チョコレート?ネコ?ピラミッド?それともゾウ? ふってみたり、ころがしてみたりするけれど、うんともすんともいいません。そしてとうとうお誕生日がやってきました。ニノはわくわくしながらつつみをあけてみると…、箱の中に入っていたのは、つまらなそうな一冊の本でした。

おしゃべりするわけでも、うたうわけでもない。いっしょにもあそべない。なんの役にたたない!泣きそうなニノに、おとうさんとおかあさんは、本をひらいてみるようにすすめます。ニノはしぶしぶ本のページをひらいて読んでいくと…いました!いました!!ありました!!!ネコ、ゾウ、ピラミッド、宝物まで!なんて、すてき!ニノが箱の中に入っていることを想像していたものは、みんなそこにあったのです。そして、もっともっと楽しいおどろきもいっぱい!!

 

■ 感想

この『びっくりプレゼント』は、本の力をストレートに描き、本の力のメタファーを表現したともいえる素敵な作品です。

内容の素晴らしさはもちろんですが、この絵本は上記で触れたように、メキシコの手話団体と出版社の共同制作による手話DVD絵本にもなっているんです。日本の手話ニュースなどを見ていると、ニュースのすみっこの丸い円の中で手話通訳者がニュースを紹介するというのはよく見かけます。あくまで「聴覚障害のある方にも」というスタンスのものですよね。でも、この『びっくりプレゼント』手話バージョンDVDは、聴覚障害者の子どもが母語であるメキシコ手話をメインに楽しめる作品になっています。

動画の一部をみてみたところ、お話が始まる場面では、絵本の表紙の前に画面いっぱいの両手が映っていて、合わせていた手が開いていきます(本という手話なのだと思います)。その後、ふっくらした表情豊かなお姉さんがストーリーを手話で進めていくのですが、物語のイラストが一部アニメーションになっていて動いたりもします。扉をあけるギギギ―という音やバックミュージックの音楽も流れていますが、本のナレーションはありません。スペイン語の文字が下に表記されているだけ。改めて言うようですが、手話を母語にしている聴覚障害の人にとっては、スペイン語は第二言語になるのですね。

この絵本についてではないのですが、2008年、アルゼンチンの児童文学雑誌『Revista Padres』で、イソルさんは本作りとその対象読者について次のように語っています。

「私の本がきっかけで、読み手にどんなことが起こるだろうって考えるのが好きなの。誰かのためにどんな贈り物をしようか考えて、喜んで受け取ってくれるといいなあと期待しているような感じね。プレゼントの包みを開けるのは誰なのか、私にはミステリアスなことだけど、子どもたちはそんなサプライズなプレゼントを受け取ることに、とてもわくわくしていると思うの。いずれにしても、繊細な人も好奇心旺盛な人も、だれもがその対象になっているのよ」

■ 作者について

イソル(Isol)

1972年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれ。美術教師になるために、ロヘリオ・イルルティア国立技術学校で学び、後にブエノスアイレス大学の芸術課程に進むが、新聞や広告等プレス関係のイラスト、絵本作家、漫画家、文学その他芸術関係の仕事で多忙を極めるようになり、大学を辞めて仕事に専念するようになる。また、絵を描く仕事の他に歌手としても幅広く活躍している。現在、ブエノスアイレス在住。

 

■ メキシコの手話団体と出版社の共同制作による手話DVD絵本の成り立ちについて

(アルゼンチン児童文学のオンライン専門誌『イマヒナリア(Imaginaria)』2003年9月3日「Espacios para la lectura」より一部要約)

世界の聴覚障害者人口は全人口のおよそ1パーセントを占めると言われており、この数字は非常に重要な意味を持っているにも関わらず、彼らの存在、文化、問題はあまり知られていないのが現状です。メキシコだけでなく、世界各国でこうした状況が蔓延している限り、聴覚障害者たちは孤独感に苛まれ暮らし続けています。手話が母語であるメキシコの聴覚障害者にとって、書き言葉であるスペイン語教育は第二の言語であり、母語である手話の重要性が取り上げられてきました(…)。

今回、聴覚障害者の文化と健聴者の文化間の歩み寄りのために尽力している非営利組織「エンセニャメ(Ensen~ame)」と出版社であるFCE社の共同制作によるDVDコレクション「エンセニャメ・ウン・クエント(Ense~ame un cuento:おはなしして)」の立ち上げの一環として、インタビューを実施しました。このメキシコの手話絵本シリーズは、同出版社より計4冊が出版されています。

インタビューで、手話団体「エンセニャメ(Ensen~ame:おしえて)」の代表シタ・アルサーニ女史と、メキシコの手話とスペイン語ナレーションによる劇を上演している聴覚障害者と健聴者からなるプロの劇団「セニャ・イ・ベルボ(Sen~a y Verbo:手話と言葉)」の団長アルベルト・ロムニーツ氏が、こんなふうに話しています。

FCE出版社

「お話を伺っていると、聴覚障害者の人々は本だけでなく芝居でも文学に触れることも難しく、歴史や逸話物語に触れる機会はもっと少ないのですね。詩も手話に翻訳して上演するのはとても難しいのではないでしょうか。なぜなら詩には、行間やリズムそして感情の抑揚といったものがあるのですから。」

アルベルト・ロムニーツ氏(劇団「セニャ・イ・ベルボ」)

これまで、私は手話で翻訳された詩をたくさん見てきましたが、今回のように聴覚障害の子どもたちのために、本に手話をつけるというのは世界的に見てもとても斬新なことです。

詩については、手話から書き言葉である英語に至るまで翻訳上演はされてきました。特に、イメージが多く用いられる詩は、手話での翻訳がとても美しいのです。例えば俳句の場合、手話はこうした役割を多く果たしています。はっきりとしたイメージを頭に浮かばせながら、言語間の違いを存分に味わうことができるのです。芝居では、常にこれは同時に行われます。つまり見ながらにして聞いているのです。これは、文学と映画の間にある違いに似たところがあるかもしれません。

シタ・アルサーニ女史(手話団体「エンセニャメ」)

DVDという手段は基本ステップです。手話に翻訳していくことの重要性を知ってもらうことができるでしょう。聴覚障害者にとって、音声言語で書かれているストーリー理解に難しさがあるという問題は様々な書籍で取り上げられ、劇団でも強く訴えてきたことですが、芸術を創造する場合、それは表記を持たない言語を広めるということになります。いわば、文学を創作するのと同じようなものなのです。

 

■ おはなしのいちぶ

なんだろう?

 

チョコレートなんかだったら、とけちゃうよ!

はらぺこネコかな?

・・・

「おたんじょうび おめでとう!」

 

「ニノ、これは あなたの本よ!」

「えーっ…?!こんなのだなんて、おもってもみなかったよ!

 ねえ、なにかの じょうだんだよね?」

「おしゃべりしない。うたもうたわない。
 いっしょにも あそべない。なんのやくにもたたないよ!」
「でも、まだ ほんをひらいてないでしょ!」
「ひらく?
 でも…ここに おもしろいものなんてあるの?」

「うわーっ!」

 

・・・