かえりみち

かえりみち

原題: Camino a casa

出版社:フォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ 社《Fondo de Cultura Economica》

発行年:2008

 

2007年 フォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ社主催「第11回風の岸辺(絵本部門)」賞受賞作品

 

コロンビア 「フンダレクトゥーラ(読書教育推進非営利組織、IBBYコロンビアの代表)」主催

2009-2010年優良図書100選の推薦図書

 

作者

文:ハイロ・ブイトラゴ(Jairo Buitrago) コロンビア人

絵:ラファエル・ヨックテング(Rafael Yockteng) ペルー生まれのコロンビア人

 

文: ハイロ・ブイタルゴ(Jairo Buitrago)

作家、編集者、映画研究者。コロンビア国立大学で文学を専攻。子供向けの作品を執筆する他、編集者としての経歴も持ち、また映画の脚本を手掛ける等、様々な分野で活躍の場を広めている。2007年、経済文化基金 主催「第11回 ア・ラ・オリーリャ・デル・ビエント賞(絵本部門)」受賞。著書に『エル・セニョール・エル・ファンテ(2007)』、『エミリアーノ(2008)』、『エロイーサと虫たち(2009)』等がある。

 

絵:ラファエル・ジョックテング (Rafael Yockteng)

1976年、ペルーのリマ市に生まれる。4歳の時、家族でコロンビアに移住。ホルヘ・タデオ・ロサーノ大学でグラフィック・デザインを学ぶ。2000年度IBBY主催ラテンアメリカの児童書を手掛けるイラスレーターを対象にしたコンテスト「ユートピア賞」を受賞。以来、コロンビアを中心に海外でも作品を提供。代表作に『空から垂れ下がる木(2003年)』、『白い花 ―マヤのおひめさま(2005年)』、『まめスープ(2009年)』等がある。

 

■     あらすじ

主人公の少女には、ちょっとかわった架空の友だちがいます。実はその友だち、なんと巨大なライオンなのです。少女はライオンにつきそいを頼みます。学校から家までの長いかえり道、ライオンの背に乗って誰よりもはやく進みながら、とちゅう、弟を迎えに託児所に寄り、自分の暮らすスラム街へと入っていきます。ライオンが一緒なら、つけのきかない店にだってどうどうと寄っていけるのです。家についたらご飯の支度、そして工場から疲れて帰ってくる母親の帰りを一緒に待ちます。こうして長い一日を終え、眠りにつこうとする少女は、ベッドの横に置いてある家族写真を見つめて、こうささやくのです。「おねがい、ひつようなときは、もどってきてね」 その家族写真には、ライオンのたてがみのような髪型をした父親の姿が…。そう、最強の力を持つ守りのシンボル、架空の連れ添いの友であるライオンは、実は少女の父親そのものだったのです。父親の不在という難しいテーマを、現実にあるラテンアメリカの貧困社会を背景に描いた、悲しくも感動的な作品になっています。

(対象年齢:6歳から)

■ 感想

この絵本はメキシコ等中南米諸国が中心となり活動する「経済文化基金」が主催する、芸術的才能のある絵本作家発掘のためのコンクール『ア・ラ・オリーリャ・デル・ビエント賞(絵本部門)』の2007年の受賞作品です。このコンクールは、アンソニーブラウンやきたむらさとし等の著名な絵本作家たちおよび詩人、イラストレーター、編集者等が審査員となり、毎年開催されているコンクールです。

 

ストーリーは、シングルマザーの家庭の日常生活を題材にしたシンプルな作品ですが、最終頁では感動と悲しみの涙がこみあげてきます。近代的な高層ビルが立ち並ぶ中心部と、内戦などの影響で周辺に広がるスラム街。そこに住む子どもたちは、遠く離れた学校に通うためスラム街の丘の斜面を下って学校に行き、帰りは再び長い道のりを歩いて家に戻ります。彼らの多くには出迎える家族がいません。父親は不在、母親は働いているため、家事一切を任されているのです。

 

この作品について、作者のブイトラゴ氏とイラスト担当のヨックテング氏は次のように語っています。「ストーリーは、少々過酷なテーマを扱っているため、あまり子ども向きではないと思われるかもしれません。でも、ぼくたちは子どもに対して何かを隠したり、嘘の世界を描くべきではないと常に思っています。この作品は、児童文学特有のファンタジーな面を組み込んでいますが、内容はまさにラテンアメリカの現実を現しているのです」

 

こうした厳しい現実を描いた作品は、絵本の世界ではあまり多く見られませんが、最近では、両親の事故死を扱った作品 『でも、わたし生きていくわ』(2010年 文溪堂)や、戦争や環境問題を扱った作品も現れています。楽しい世界を扱った絵本だけでなく、こうした作品もこれからどんどん増えてほしいと思います。

 

■ おはなしの一部

 

いえまで いっしょに ついてきて。

 

おしゃべりの あいてがほしいから。

 

それに、とちゅうで ねむってしまわないように。

 

まちから とおくはなれたながいみちのり。

 

………

 

■ 書評

メキシコ最大手日刊紙 「エル・ウニベルサル」2009年1月6日 文化欄掲載記事

家族の不在を表すには、11の文章と12枚の挿絵があれば十分である。貧困を語るには、少女の“ゆるんだ靴下”を見れば一目瞭然だ。そして、架空の友であるライオンの付き添いのお陰で、都市周辺に広がるスラム街の貧しさや、父親の不在という痛みをさほど辛くは感じさせない。

コロンビア人のコンビ、作家のハイロ・ブイタルゴ氏とイラストレーターのラファエル・ヨックテング氏が手掛けた最小限の文章と挿絵で語った絵本『かえりみち』は、ファンタジーを用いて郷愁を覆い隠しながら、シンプル且つ見事な手法で、家族の中の父親の不在という難しいテーマに取り組んだ作品である。

物語はシンプルに展開する。少女がライオンに家までの帰り道を付き添ってほしいと頼む。ライオンは少女がいつも歩く帰り道を手助けし、彼女の住むスラム街へと一緒に入っていく。さらにページを進むにつれて、物語は深みを増していく。読者は気づくだろう。母親の代役となり家事一切をこなす少女の姿と貧しさに、そして父親の不在と、思い出の家族写真に写る父親の姿…。

本作品は「経済文化基金」が主催する、『ア・ラ・オリーリャ・デル・ビエント賞(絵本部門)』の2007年の受賞作品である。作家ハイロ・ブイトラゴは、家族の不在について、これはコロンビア、チリ、アルゼンチン、メキシコ、その他多くの国々で一般に起こりえる日常的なテーマなのだと言う。「行方不明者や政治犯として捕らえられた家族の子どもになることは、ほぼ起こりえないこととして考えがちであるが、実際にこうした被害は起きていて、そうした境遇の子どもたちを見るのは、あちらではさほど珍しくないのです。」

インタビューの中で、ブイタルゴ氏は自らがコロンビアを旅行中に、この作品が生まれたと語っている。スラム街の子どもたちは、様々な事情を抱えながら苦しい生活をおくっているだけでなく、自分たちで生き抜く術をも学ばなければならない。こうした貧困問題は、もちろんコロンビアに限ったことではなく、ラテンアメリカのあらゆる地域で問題となっている。

都市部における政治、社会的激変に伴い、内戦の犠牲となったり政治犯として捕らえられた家族の子どもたちや虐待に苦しむ子どもたちに対し、政府はほとんど対策を講じていない。ブイタルゴ氏とヨックテング氏の二人は家族の不在をテーマに、子どもたちは他の大人同様、争いの犠牲となり深い傷を負っているのだと、この絵本で示している。

孤独と不在、この2つは、ブイタルゴ氏が自らの絵本の中で取り組んできたテーマであった。2007年に出版した『エル・セニョール・エル・ファンテ』では大都市の孤独について、今回の『かえりみち』では、家族の不在について語っている。本作品は貧困をテーマにした悲しげな物語ではあるが、同時に少女の前向きに生きる力強い姿勢が表れている。

「当初は、見捨てられた仲間の物語にしたいと考えていた。ブロンズ像のように頑丈な、架空のライオンを題材に、強さを教えてくれるようなストーリーを組み立てていった。そして最後には、力強い結末になる予定だった。しかしページを進めるにつれ、僕らが伝えたかったものは、少女とライオンの両方の中にある強さなのだと思った。」

ブイタルゴ氏とヨックテング氏はこの作品の中で、一般的なスラム街に住む子どもたちの生活を伝えている。彼らは遠く離れた公立の学校に通うためにスラム街の丘の斜面を下っていき、帰りは背中に大きなかばんを背負いながら長い道のりを歩いて再び丘を登る。子どもたちの多くは父親が不在、母親は働いているため、責任ある仕事を負いながら家族の不在の中で悲しみに耐え忍んでいるのだ。